日本銀行の原田泰審議委員がナチス・ドイツ総統だったヒトラーの財政・金融政策について「正しい」などと発言したことについて、国際的な人権団体が抗議の声明を出すなど波紋が広がっており、日銀は謝罪声明を公表するなど対応に追われている。


  原田氏の発言に対し、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の記録保存や反ユダヤ主義の監視を行っている「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」は6月30日、「深く憂慮する。日本のエリートはホロコーストについて教育が必要だ」とする声明をウェブサイトに掲載した。


  原田委員は自身の発言について、日銀広報を通じ、「一部に誤解を招くような表現があったことについては、心よりおわび申し上げたい」とコメントした。日銀も「審議委員の発言に誤解を招くような表現があったことについては遺憾に思っており、こうしたことがないよう、今後とも注意してまいりたい」との声明を発表した。

正しい政策をやったが故に

  問題の発言は29日の講演で飛び出した。金融緩和は将来の需要を前倒しするだけだという批判に対し、世界大恐慌時に積極的な財政・金融政策の必要性を説いたケインズを例に出して反論。その中で、「ドイツでケインズの言葉通りにやったのがヒトラー政権だ。ヒトラーが正しい金融・財政政策をしてしまったことによって、かえって世界が悪くなった」と述べた。


  続けて、「ヒトラーが正しい財政・金融政策をやらなければ、一時的に政権を取ったけれども、国民はヒトラーの言うことをそれ以上、聞かなかっただろう」と指摘。「彼が正しい財政・金融政策をやったが故に、なおさら悲劇が起きた。ヒトラーの前の人たちがやればよかった」と語った。いずれも日銀のウェブサイトに掲載された講演録にはないアドリブだった。


  日銀広報はブルームバーグに対し、原田氏の声明を公表。同氏はその中で「この発言は、早期に適切な政策運営を行うことの重要性を述べたものであり、ヒトラーの政策を正当化する意図は全くない。実際、発言の中において、ヒトラーの政策が悲劇をもたらしたことは明確に指摘している」と釈明した。