「政治とカネ」の問題で永田町をにぎわせていた自民党の寺田稔総務相(64歳、広島5区)が、辞表を提出した。
寺田氏は今年8月の初入閣以降に「政治とカネ」問題が続々と表面化。自身による関係政治団体への貸付金600万円が政治資金収支報告書に不記載だったとする疑惑のほか、昨年の衆院選で公選法違反の運動員買収をしたのではないかとの疑いが出た。地元の「寺田稔竹原後援会」(広島県竹原市)が故人を会計責任者とする同報告書を提出していた問題や、関係政治団体が受け取った「寺田稔」宛ての領収書11枚の筆跡が酷似し「不自然だ」との指摘も報道されている。
「疑惑のデパート」状態だった寺田氏だが、閣僚を務めた総務省は政治資金規正法を所管する。野党は「余りにもずさん。あり得ない」(岡田克也・立憲民主党幹事長)、「疑惑が底なし。何回アウトになったら退場するのか」(穀田恵二・共産党国対委員長)と、強く辞任を求めてきた。寺田氏は「最大限の説明責任を果たしている」と突っぱねてきた。しかし止まらない疑惑報道を受け、岸田首相も「クビ」にするかどうかの判断を迫られる事態となった訳だ。
その寺田氏とはどんな人物なのか。「地味で目立たない」との評はほぼ共通する。全国的には無名に近いとも言える存在だったが、経歴は一連の醜聞とは正反対で「ピカピカ」そのものだ。東大法学部からトップ官庁とされた大蔵省(現財務省)に入り、米ハーバード大で修士号を得た。弱冠20代で滋賀県長浜税務署長を務めた「スーパーエリート」だ。妻の祖父は故池田勇人元首相で、岸田首相が率いる派閥・宏池会(岸田派)に所属する。地元も岸田首相と同じ広島県だ。
こうしたキャリアが「選民意識」を強めるのかもしれない。仕えた官僚は「普段から態度が高圧的。報告などをしても怒るので接するのが怖かった」と漏らす。その他にも「とにかく法令や行政、国会運営について、文書や報告の中身は細部までこだわる。少しでも違っていると突っ込まれて直される」「仮に他の人が認めていても、自分が納得しないと了解しないのが寺田さん。根回しなどは大変だとの評判だ。自分こそが国政に精通しているという大変な自負があるのだろうが」(いずれも与党関係者ら)との声が伝わる。「仕事と仕事の合間の時間の使い方など比較的どうでもいいことでも理屈で説明を求められるという」(政府筋)とこぼす人も。
宏池会は故宮沢喜一元首相なども輩出し、高学歴の「お公家集団」と呼ばれてきた。政府関係者からは寺田氏に関し「『国会議員でも後輩だと見下すように威張るので嫌いだ』という人がいる」「閣僚なのだから食事会を主催するなど若手議員の声を積極的に聞いたり、面倒を見たりしてもいいはず。そういった話も聞かず、公家集団の良くない面を体現している」との指摘がある。政治的な立ち位置を巡っては、岸田派筋は「本来は首相の最側近に位置してもいい人なのに、後輩の木原誠二官房副長官らにその座を奪われている。欲がないと言えば聞こえが良いが、残念な人という印象」と容赦ない。
さらに国民の神経を逆なでしたとみられるのが11月18日の閣議後記者会見だ。自民党内に辞任論があるとした質問に対し、寺田氏は「耳にしていない」「何人かの党の関係者からは激励を受けている」と反論した。国民の納得を得ているのかとの問いには、地元の人たちから「非常に激励をいただいた」「『説明に感心しました』という声しか私は聞いておりません」と「一蹴」した。
永田町関係者は「この夜から政権内で寺田氏を更迭する動きに入り、後任の人選手続きにも着手した」と解説。この記者会見に先立つ11月18日の閣議後、寺田氏は松野博一官房長官と会っていたとされ、閣僚辞任を迫られたのではないかとの見方もある。もっとも、政権内からは「しばらく前から『いつ辞めるのか』といった話題が当たり前になっていた」「最近の発言は、もはや『売り言葉に買い言葉』にしか聞こえない。頭のいい人にありがちだが、違法ではないと主張することに固執しすぎ、全体が見えていない気がした」(いずれも関係筋)との指摘が聞かれる。
岸田内閣は今国会、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で山際大志郎経済再生担当相が、「死刑執行のはんこを押すときだけニュースになる」といった発言で葉梨康弘法相が、ともに事実上更迭された。寺田氏の辞任によって”3人目”となり、ドミノ辞任が起きている。葉梨、寺田氏は岸田派で「首相のお膝元が足を引っ張っている」(派閥筋)状況だ。NHKの11月の世論調査では内閣支持率33%に対し、不支持率が46%と逆転。政権運営は既に危険水域だ―。
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