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徽宗皇帝のブログ

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スナクの尻は誰のものか
「現代ビジネス」記事で、私には意味不明の言葉も何か所かあり、論旨も半分くらいは眉唾ものに感じるが、一言、「スナクはマクロンだ」という指摘は正解だと思う。つまり、DSの傀儡だろう。奥さんが最初から大金持ちだし、ゴールドマンサックス出身だし。
前半はほとんど無駄話だが、中盤以降の細部にはいくつか思考の参考になる部分もあるので転載する。リシ・スナクがシリ・スナクになっているところがあるのが笑える。

(以下引用)



 
 
 
新聞記者の夫が不倫! 携帯電話を取り上げようとしたら初期化されてしまい……







波乱のイギリスで行われたセレモニー

2022年10月18日、俳優のダニエル・クレイグが、イギリス王室のアン王女から、聖マイケル・聖ジョージ勲章を授与された。この勲章は、クレイグが演じたジェームズ・ボンドが、スパイ・フィクションの中でエリザベス女王から授与されたのと同じものだった。


2012年のロンドン五輪の開会式でクレイグは、MI6の敏腕エージェントのジェームズ・ボンドとして、エリザベス女王を開会式会場までエスコートするというパフォーマンスを演じたことがある。「女王陛下の007」よろしく、その頃からジェームズ・ボンドとイギリス王室の、虚実ないまぜの良好な関係が続いてきた。今回の勲章授与によって、またひとつ虚構が現実に追いついた。王室も007同様、イギリスを支える壮麗なフィクションの一つであると訴えるかのように。

 

それにしても、なぜ今なのか? その答えは実は容易で、なぜなら今ほどイギリスに虚構の力が必要な時はないからだ。なにしろ、授与式の2日後の10月20日には、イギリス首相のリズ・トラスが辞任を公表するほどの渦中だったのだ。


首相就任後わずか44日で行われた辞任の挨拶は、端的にイギリス政府の混乱を表していた。原因は、トラス首相が公約通り公表した「ミニバジェット」という減税策が金融市場から猛反発をくらい、ポンドの暴落が止まらなかったことにある。閣僚の罷免や辞任も続き、トラス内閣はあっという間に瓦解の危機に見舞われた。それを保守党の重鎮たちも救おうとはしなかった。


そんなさなか、あたかも政権の危機から人びとの関心をそらすかのように執り行われたのが、ダニエル・クレイグの叙勲式だった。なんてことはない、体の良い目眩ましである。


前回も触れたように、イギリスを支える2つの柱である王室と政府のうち、政府の危機に王室が介入した格好だ。作中では、国王たるエリザベス女王が授けた勲章を、新国王のチャールズ3世ではなく、妹であるアン王女が授けたのも、やはり、今回の叙勲式の目的が「虚構の世界の再現」によるイメージの喚起にあったからなのだろう。エリザベス女王がジェームズ・ボンドに勲章を与えたときのような、国の安定感を醸し出すことに力点が置かれていた。

虚構の物語を、現実の政治が追い抜いた

こうして王室が政府から人びとの視線を奪っている間に、後任の首相選びは超加速で進められた。辞任発表から4日後の10月24日には、保守党の新党首としてリシ・スナクが選出された。これだけの短期間に決定できたのは、党首に立候補したのがスナクだけだったからだ。立候補届け出の締め切りが来た時点でスナクの選出が無投票で確定した。


むしろ、後任の保守党党首ならびに首相を選出することを保守党の上層部が最優先した結果なのだろう。スナクのほかには、ペニー・モーダント下院院内総務とボリス・ジョンソン元首相の名が上がっていたが、ジョンソンは23日に出馬の断念を表明した。モーダントの辞退は推薦人数が立候補条件を満たさなかったからだという。


面白いのは、冒頭の007絡みでいえば、スナク首相の誕生によって、今度は、現実が虚構を追い抜いてしまったことだ。シリ・スナクというインド系初の首相が誕生したことで、「非白人初!」という惹句をジェームズ・ボンドは首相に取られてしまった。


ダニエル・クレイグが007から降板すると公表されたとき、次のボンド候補として挙げられた俳優の中にはイドリス・エルバの名があった。エルバのボンドが誕生すれば、黒人初の007となる。非白人初の007の誕生を待ちわびる声が高まる一方、エルバ本人は頑なに否定し続けてきた。だが、そんなことにかまけている間に、「非白人」枠のイギリス人の活躍については、現実の首相が追い抜いてしまった。


インド系イギリス人のシリ・スナクは、非白人で初の首相だ。それだけでなく彼は史上最年少の42歳で首相となった。過去の多くの首相同様、スナクもまたオックスフォードの卒業生だが、同時に彼はアメリカのスタンフォード・ビジネススクールでMBAも取得している。そしてMBAホルダーの首相というのも初めてのことだ。こうした初モノづくしでスナクは、すっかりイギリス政界の雰囲気を変えてしまった。

 

もっともこうした経歴がトラスの後任としてスナクが選ばれた理由でもあった。2015年に庶民院議員に選出され政界入りするまで、スナクはずっと金融畑を歩んできた。投資銀行大手のゴールドマンサックスに勤務し、ヘッジファンドの立ち上げも行ったことのある金融経済のエキスパート。それこそが今この時、首相として最も期待されていたものだ。


それは裏返すと、シティが首相を決める時代であり、ポンドがイギリスの国政を左右する時代であるということだ。実際、トラスは金融市場からの猛反発にあい、史上最短の44日で首相辞任を決断しなければならなかった。

CEO的な首相・スナク

実はこの夏、ボリス・ジョンソンのスキャンダルによる辞任を受けて行われた党首選挙で、スナクは最後までトラスと争っていた。その時はトラスが勝利したのだが、党首選の論戦においてすでにスナクは、トラスの考える減税政策を批判していた。経済学的に正しいと合意されている観点から判断しなければ、市場は政治に対して手痛いしっぺ返しをしてくる、というのがその時の趣旨だが、事態はスナクが警告していた通りの方向に進んでしまった。彼が今回、無投票で党首に選出されたのも、2ヶ月前の、まだ記憶に新しい彼の言動があったからなのだろう。


トラスは、今更ながらのサッチャリズム/レーガノミクスとして、減税策によって国民経済に刺激を与えるサプライサイドエコノミクスを実行しようとした。だがもはや市場は、トリクルダウン説、すなわち、まずは資産家や大企業を富ませることで、その富がやがては社会階層の下にも滴り落ちていき、結果として国全体が豊かになる、というシナリオを信じていないことが明らかになった。


少なくとも、基軸通貨のドルではなく、ポンドによるレーガノミクスを目指したトラスのミニバジェット策では、イギリス国債の返済原資の説明責任が最低でも求められる。だが、そのことにトラスは思い至らなかった。レーガンと同時代のサッチャーのように、人びとの尻を叩けば、自然とイギリス経済は自立できると考えていた。

 

しかし、時代は変わっていた。サッチャーの後、イギリスは、経済の中核として産業を捨て金融にシフトした。金融化を進める傍らで産業を空洞化させた。そもそも30年前とは経済の仕組みが異なっていた。世界で最初に産業革命を経験したイギリスは、その革命の成果を自ら捨て、金融革命へと転じた。アメリカやコモンウェルス諸国との間の交易をベースに、金融業という商取引の最も核になる部分に集中した。


そうした「サッチャー後の革命が生み出した金融時代から誕生した新世代」のひとりがスナクだった。シティ優位のイギリスにおいて、スナク首相は、いわば国家のCEOのような存在となった。その意味で、前回触れたカーティス・ヤーヴィンの思い描く新しい国家のあり方を、国家の内側から体現したような存在といえる。意外にも、ヤーヴィンの思い描くモナキー(単一統治者制)は、その雛形となったはずのイギリスのモナキー(君主制)を食い破って誕生したことになる。


ところでこのスナク首相誕生が体現した、シティに差配されたモナキーは、イギリスに対するものというよりも、コモンウェルスに対したものと見たほうがいいのかもしれない。つまり「コモンウェルスあってのイギリス」へのシフトだ。


ブレグジット、すなわちEUからの離脱にしても、理由の一つは、EUよりもコモンウェルスとの連携を強化する方に舵を切るほうが、イギリスの存続に有意だと考えられていたこともあった。シティからすれば、イギリスだけでなく「コモンウェルスの金庫番」を目指した動きだ。実際、シティは、ユーロドラーの扱いをはじめとして、長らく世界の金融センターとして機能してきた。

 

EUがときに「ヨーロッパ合衆国」と呼ばれるのにならえば、コモンウェルスを、文字通りの「イギリス連邦」にしようと考えている。ブリティッシュ・エンパイア再び、ということだ。


実際、アメリカなら「アメリカ・ファースト」といっても、北米大陸に広がるその広大さから自立してやっていくこともできるだろう。さらに、50州だけでなく、中南米やカリブ海、南米大陸まで含めた「新世界アメリカ」を交易圏とすれば十分巨大だ。


一方、イギリスは、あの国土の大きさで「イギリス・ファースト」といっても詮無いところがある。できれば「イギリス連邦・ファースト」として「コモンウェルス・ファースト」を語る必要がある。そのためにも、経済のグローバル化や自由化は引き続き不可欠であり、流通性の高い決済通貨を保持しながら金融業を主導する必要がある。


そのようなブレグジット以後に期待される、金融の時代、情報の時代の申し子として金融専門家のスナクが浮上した。そう考えることもできるのではないか。その際、彼がインド系であることの意味は少なくない。かつての英領植民地の住民の末裔が、本国イギリスの首相を務めることになったのだから。

左派のフランス、右派のドイツ

ところで、トラスとスナクの首相交代は、この事件がアメリカに与える余波まで含めて興味深い。というのも、イギリスは、アメリカが無意識のうちにその動きを追いかけてしまう、ほぼ唯一の国だからだ。イギリスの顛末は、なぜかアメリカ人の無意識に訴える。


逆にアメリカに、ここのところ意識的に影響を与えているのが、左派の場合はフランス、右派の場合はドイツだ。リーマンショック以後、アメリカでこの傾向が増しているのは、端的に、2016年大統領選におけるバーニー・サンダースとドナルド・トランプの予期せぬ台頭で明らかにされた。レフトでもライトでもない「センター」の実態は、金融化とIT化の洗礼を受けた市場経済信奉者のことであり、その拠点はロンドンのシティとニューヨークのウォール街だった。

 

だが、リーマンショックによってウォール街同様、シティも大打撃を受けたため、アメリカはいざという時の参照先であるイギリスを失い、代わりに以後、不安に駆られた政治や文化の活動家が範を求めたのが大陸欧州だった。左派はフランス的な進歩主義へ、右派はドイツ的な反動主義へと傾いた。近代の啓蒙プログラムを果敢に進めようとする側と、もうそこからは手を引こう、どうせそれはアングロサクソンのプログラムだから、と考える側に分かれた。もっとも、こういったからと言って、フランスが「進歩」一色であるわけではなく、ドイツも「反動」一色というわけではないことはいうまでもない。


翻ってセンターとは、経済を政治よりも優先する立場であり、だからこそ、左右のイデオロギーから等距離を保ち中立性を訴える。一方、レフトとライトは、ともにそうした経済優位主義に抗して政治の主導権を取り戻そうとする点では同じ地平にある。スナクの台頭は、経済を政治よりも重視せよ、というシティのメッセージでもある。


ちなみにこれはあまり注目されることがないことだが、アメリカで今一番人口の多い白人はドイツ系だ。ドイツ系移民は建国当初から北米大陸にやってきていたものの(例えばペンシルヴァニア)、大挙して移民してきたのは19世紀半ばからであったため、移住先は建国13州のある東部大西洋沿岸州ではなく、アパラチア山脈を越えた中西部以西の地域が中心となった。今日おおむね共和党支持の高いレッド・ステイトが占める地域だ。


実際、アイオワやウィスコンシンなど中西部の報道では、いかにもドイツ系と思しき金髪碧眼の恰幅の良い男女がよく現れる。アカデミックな右派の研究機関の中心の一つであるシカゴ大学も、ドイツ系の石油王ロックフェラーの寄付によって今日の総合大学の基礎が築かれた。イリノイ然り、ミズーリ然り、テキサス然り。中西部以西のアメリカでは後発移民であるヨーロッパ出身者によって、大陸欧州の縮図のような世界がある。その中で密かに目立つのがドイツ系だ。


前回触れた「新反動主義」の中核カーティス・ヤーヴィンの新官房学にしてもそのネタ元は、18世紀に(ドイツの前身のひとつである)プロイセンのフリードリヒ2世が採用した統治方法だった。新反動主義にはドイツ的な影がつきまとう。


もともとドイツの近代化は、先行したイギリスとフランスの背中を見ながら試みられたものであり、追いつけ追い越せの論理のもとで、多分に自信と失望の上げ下げの激しいものだった。イケイケのときと、どんよりと反省するときが繰り返された。大なり小なり近代化は自分たちの国から自発的に生じたプログラムではないという自覚の下で進められたものだった。

「初のインド系」というベールの下

スナク首相の誕生は、ヤーヴィンいうところのCEO的な統治者の誕生でもある。スナクの最適化指標はポンド。ポンドの値段が一般企業にとっての株価に該当する。ポンドという指標の最適化に配慮しながら意思決定を行うという点では一種の功利主義型統治の実践でもある。


ある意味でスナクは、市場の危機に際して「精霊使い」ならぬ「市場使い」として召喚された魔道士のような位置づけだ。金融市場というゲームの中で、ゲームのルールに従いながら(ときにそのルールの書き換えというチートを行いつつ)、一国の富の最大化を目指すゲームプレイヤーである。


もっともスナクを紹介する報道では、しばしば、ポンドの暴落を鎮めるために抜擢された金融市場ゲームのスペシャリストという側面よりも、インド系初の首相誕生が喧伝されている。その様子を見ると、逆に金融市場に配慮した政治の実践の上で、ダイバーシティやインクルージョンといった「Woke」な要素が、一種の隠れ蓑のように使われていることにも気付かされる。


本当はイギリス版のマクロンが誕生したのに、あたかもイギリス版オバマが誕生したかのように紹介される。ダイバーシティの確保・維持というグローバルアジェンダを盾にしながら、地球上を皮膜のように覆うネットワーク化された金融システム/金融市場の中での、イギリスにおけるエージェントとしてスナクが抜擢されたはずなのだが、その事実はうまい具合に隠されてしまう。

 

シティのエージェントらしく、スナクは、クリプトを始めとするFinTechの推進者でもある。実は、彼の妻の実家は、インドのIT大企業Infosysであり、そのため、ときにスナクの資産は王室以上ともいわれる。その妻と知り合ったのはスタンフォードの在学時であり、当然、スナクはシリコンバレーとの繋がりも保持している。彼が勤めたゴールドマンサックスの本社はマンハッタンのウォール街にある。


であれば、スナクならば、シリコンバレーとウォール街を天秤にかけながら、その最も有益なところをシティに持ち込むことも可能なのだろう。金融ビジネスと情報技術の融合の先にある、次代の国際交易市場=プラットフォームを構築する上で必要となる様々な資源に、新しいイギリス首相は容易にアクセス可能な位置にある。もちろん、目下の優先事項は、トラス前首相の起こした混乱の火消しなのだろうが、それが一息つけたとき、どのような一手を打つのか、気にかけておくほうがよいだろう。


ブレグジットの決定やトランプ大統領の当選の際にも感じたことだが、近代的な仕組みに対する前向き・後ろ向きの評価は、フランスやドイツなどの大陸欧州から示されているのに、いざそこに踏み出すという選択になると、意外と英米2つのアングロサクソン諸国が先手を打つことが多い。簡単にそれまでの自分を否定できてしまえる時がある。その意味で、スナク首相は、国王からシティへ、首相の信任権限が移ったことを象徴しているようにも見える。そうした動きは、アメリカにも飛び火することだろう。


少なくとも今回、リズ・トラス前首相の一件で、無策の減税策は金融市場からの反発を受けることがはっきりした。となると、仮にこの11月のアメリカ中間選挙で共和党が下院で多数派になった場合、減税策という共和党の旧来からの方針にも変化が見られるのかもしれない。現状、ドルの一人勝ちが続いているが、その影響もどこまで見ればよいのか。


こう見てくると、スナク首相の今後の采配はやはり気になる。もっとも、ブレグジット以後、イギリスは頻繁に首相の交代を経験してきた。ボリス・ジョンソンの再登板も含めて、スナクがワンポイントリリーフ的な首相となる可能性も否定できないところが、実はどうにも怖ろしい。







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