もともと予測されていた事態がその通りに推移しているだけの話だ。
米国はドナルド・トランプ大統領の下で自由貿易から後退しているが、世界の他の国々の大半はそうではない。
トランプ氏が大統領に選ばれてから、他国の間で通商関係を強化しようとする動きが活発化している。各国は相互間の貿易拡大によって米国の追加関税による痛みを一部相殺したいと考えている。
英国とインドは6日、数年間行き詰まっていた貿易協定の締結を発表した。また、欧州連合(EU)はインドと独自の貿易協定について交渉を進めているほか、南米のメルコスル(南米南部共同市場)との自由貿易協定でこのほど合意した。カナダとアジア諸国も、古い貿易協定を引っ張り出してきている。12カ国で構成される通商グループ「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」は、コスタリカ、インドネシアなどの新規加盟申請国について検討中だ。
英国は2022年からインドとの貿易協定締結を目指してきたが、インド人学生向けビザの優遇条件や、インドでの知的財産権の扱いなどの問題を巡って交渉が行き詰まっていた。しかし、トランプ政権の関税措置が注目され始めた今年2月になって、英印両国は交渉再開で合意した。レイチェル・リーブス英財務相は4月、米国の関税措置発動を受けて英国は「世界の他の国々との貿易交渉を加速させつつある」と語った。
コンサルティング会社フリント・グローバルの通商問題専門家サム・ロウ氏は、トランプ氏が明らかに英印貿易協定の促進役になったと述べている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に中国、日本、韓国を加えたASEANプラス3は今週の財務相・中央銀行総裁会議で「地域内の貿易拡大」を通じて現在の世界的貿易ショックの相殺に努める方針を確認した。中南米では、ブラジルが米中両国への輸出拡大を図っている。
また世界の多くの国々は、米国との関係強化を断念してはいない。カナダのマーク・カーニー新首相は6日、ホワイトハウスを訪れた。同首相はトランプ氏との間で、貿易問題を含むさまざまな案件について協議するとみられていた。
英当局者は米国との貿易協定で関税率を下げたいと依然として考えている一方、今月行われる英・EUの当局者会合で、英国にとって最大の市場であるEUとより緊密な通商関係を構築することを望んでいる。
これまで、英国とトランプ米政権との取引はなかなかまとまらなかった。英政府はEU離脱後、当初は米国と自由貿易協定を結ぶことを望んでいた。だが、農業や製薬といった米国の大きな産業が英国市場への優先的アクセスを得ることになるという見通しに、英当局者が二の足を踏み、協定は実現しなかった。
EUも他の国・地域との貿易促進に努めている。EUは昨年12月にメルコスルを構成する4カ国(ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ)と貿易協定で合意し、今年1月にはメキシコとの協定刷新を発表した。
EUは他の国々との協議も活発化させている。EUの執行機関である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は2月、欧州委の他の幹部とともにインドを訪れ、EUは年内にインドとのFTAの締結を完了させるつもりだと述べた。
マレシュ・シェフチョビッチ委員(通商担当)は6日の欧州議会で、EU当局者が先週、アラブ首長国連邦(UAE)と通商協議を開始し、現在進めているインドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアとの交渉もスピードアップしていると述べた。EUは「引き続き、世界のパートナーとの貿易・投資関係を多様化させていく」。
欧州国際政治経済センターのヘニグ氏は「率直に言って、トランプ氏は威勢のいいことを言っているが、他のすべての国の貿易に与える実際の影響はかなり限定的だ」と語っている。(以下省略)
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