いつもの「くさいものにはフタ」作戦-。安倍晋三首相は13日、「私物化」が問題視されている「桜を見る会」を、自らの判断で来年は中止すると発表した。


公的行事であるはずの会を組み込んだ、私的な後援会の旅行ツアーなど「私物化」の物的証拠が続々と表面化。敗色濃厚とみるや突然逃げる手法は、2閣僚の更迭や大学入試の英語民間試験延期と同じ。1952年(昭27)から毎年続いてきた歴史ある会を中止に追い込んだ首相の責任は重い。


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20年の「桜を見る会」の中止は13日、菅義偉官房長官が会見で突然発表した。「招待基準の明確化やプロセスの透明化を検討し、予算や招待人数を含めて全般的な見直しを行う」と説明したが、裏を返せば、招待基準の明確化やプロセスの透明化に疑義が生じていることの証左で、野党の追及を封じるような動き。70年近い歴史を持つ会に「黒歴史」を残す結果になった。


会の主催は内閣総理大臣。国の公的行事だが、今月8日の参院予算委員会で、首相の地元後援会関係者が数百人規模で招待されている疑惑が浮上。招待者の決定過程について政府側は「各省庁の意見を踏まえ、功績があった方を幅広く招待する」とするが、首相以外の自民党幹部や議員も、後援会関係者を招待していたことが、過去のSNS投稿で表面化。旧民主党政権でも議員の「推薦枠」があったことが分かり、招待者の基準が不透明な現実が、浮き彫りになっていた。


首相の後援会関係者の招待をめぐっては、13日の野党追及チームの会合で、内閣官房の担当者が、首相の事務所に電話で確認し、推薦リストを取り寄せていたとした上で、招待基準に合っているかチェックしたかどうかは、明確に答えなかった。会をめぐっては、招待状を持った人が実際に招待を受けた人物か、本人確認が行われていなかったことも分かっており、「やりたい放題」の人選も含まれていた可能性が高い。


首相は13日夕、「私の判断で中止することとしました」としか答えなかった。情勢不利を見越した「ちゃぶ台返し」は明らかで、最近の安倍政権で頻発している。「政治とカネ」で菅原一秀、河井克行両衆院議員が大臣の座を追われたが、野党が追及を予定した委員会の開催直前の更迭。大学入試の英語民間試験導入延期も、側近の萩生田光一文科相の「身の丈発言」への批判拡大を封じるねらいだ。逃げの印象しか残さなくなってきた首相は来週、首相在任日数が歴代1位となる。


 


◆桜を見る会とは 「観桜(かんおう)会」と呼ばれた皇室主催による前身の催しを復活させる形で、吉田茂首相が1952年(昭27)に始めた。場所は現在と同じ新宿御苑。阪神淡路大震災や東日本大震災、北朝鮮による弾道ミサイル発射など有事をのぞき、原則毎年4月に開催してきた。


今年の開催要領によると、招待枠は1万人。たる酒や食事が無料で振る舞われる。往年の自民党政権の出席者は、皇族や各国大使、名実ともに各界の代表者ら「厳選された招待者」(関係者)で、1万人以下だったこともある。第2次安倍政権発足後の最近は、多くの芸能人が招待され、首相との写真撮影が恒例行事に。「芸能人を見る会」との皮肉も出ていた。


会の予算がふくらんでいる問題は今年5月、立憲民主党の初鹿明博議員が衆院内閣委員会で取り上げた。その後、先月13日の「しんぶん赤旗日曜版」が、首相後援会関係者が数百人規模で招待されている疑惑を報道。今月8日、共産党の田村智子参院議員が参院予算委員会で、首相を追及。


後援会の招待枠について首相は「あいさつや招待者の接遇は行うが、招待客のとりまとめなどには関与していない」と否定していた。