「派遣労働者の能力向上を図り、正社員への転換を目指す」という掛け声のもと、安倍首相が今国会での成立を急ぐ労働者派遣法改正案。現行最長3年となっている企業の派遣労働者受け入れ期間を事実上撤廃し、人を代えれば派遣を雇い続けられる内容だ。経団連の榊原会長が「使い勝手がよくなっている」と評価するように“企業寄り”の法改正で、労働者イジメが加速するのは必至。来年4月施行をもくろむ安倍政権は31日に与野党の質疑を行い、首相がAPEC首脳会議に立つ前の11月上旬に衆院通過を狙っている。

 廃案を目指す民主党が29日、派遣労働者のヒアリングを行ったが、「法改正は制度改悪。ますます雇用環境が悪化する」と次々に反対の声が上がった。そもそも、現場は現状でもひどいありさまなのだ。ヒアリングに応じたのは30~50代の外国籍を含む男女5人。現行法では「専門26業務」に限り無期限の派遣が可能だが、これが拡大解釈され、企業の都合で労働者をこき使う実態が浮かび上がってきた。

 後述の3つのケースは、いずれも派遣元は実態を把握しておらず、相談しても「派遣先のことは何もできない」と取り合わなかったという。

「業種の垣根を取り払ったら、雇用環境がますますうやむやになり、使い捨てが増える」「派遣は臨時的、一時的、と言いながら、仕事の内容は正社員と変わらない。だったら待遇も同等にしてほしい」という意見が上がるのはもっともだ。

 民主と維新の党は、維新がまとめた「同一労働・同一賃金推進法案」を共同提出する方針だが、野党が踏ん張らなければ労働環境はますますムチャクチャになる。

■公益法人に3年超勤務…30代女性
 一般事務で応募したにもかかわらず、「26業務」の事務用機器操作で契約書を作成されてサイン。門外漢である医療行為も強要され、派遣先に改善を求めると、「あなたに人格はない。うちにとってただのスキル」と一蹴された。

■通信大手に3年超勤務…40代女性
 一般事務で採用されたが、「26業務」のOAインストラクター業務を任せられ、時給が上がらないまま働き続けた。揚げ句、派遣先の上司からセクハラ被害にまで遭い、心療内科に通い退職に追い込まれた。

■大手自動車メーカーに約6年勤務…30代女性
「26業務」の事務用機器操作業務だったが、実際は製品デザインに携わり、リーマン・ショックのあおりで突然雇い止めにあった。