https://news.livedoor.com/article/detail/27952275/
<転載開始>
※本稿は、ジム・ロジャーズ(著)、花輪陽子(翻訳)、アレックス・南レッドヘッド(翻訳)『「日銀」が日本を滅ぼす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■借金に追いかけられ、足を引っ張られている
日本は今、1300兆円近い負債、借金を抱えている。内訳は、中央政府である国が国債の発行により生じた約157兆円。残りは、政府短期証券、借入金によるものだ。繰り返し述べてきたように、国債は日銀がお金を刷って購入している。つまり日銀は、政府が借金を背負うのを手伝っている、とも言える。
債務が増えれば当然、債務に関する問題が増える。中央政府が問題を抱えた中で、仮に地方自治体が稼いだとしても、本丸の政府が多額の借金を背負っていては、本来のスピードで国が成長することはできない。多額の借金を抱えながら早く走ることは、難しいからだ。
日本人は勤勉で有能だから、借金がなければ非常に速く走れるだろう。しかし、今は借金に追いかけられ、足を引っ張られている状態と言える。このような状態で、経済成長に転じることは不可能だ。
金融緩和により、確かに少しの間は景気が回復したかもしれない。しかし、長期的な視点に立てば、日本の負債を膨大に膨らませ、経済の悪化を導いたと、私は考えている。
一方で、政治家や経済評論家と呼ばれる人たちの中には、債務残高は増大しているものの、比例して純資産も増大しているので問題はない、と論じる人もいる。確かに景気が良いとき、日本であればバブル経済期などでは、借り入れを増やすために負債が増える、意図的に増やす場合もある。
■「国民の資産で債務返済」は正気の沙汰ではない
しかし、そのような人たちに言いたい。資産が暴落したときは、どうなるのか。資産価値が下がっても、同じことが言えるのか。実際、バブル崩壊後に日本経済がどん底に落ちたように、同じ轍(てつ)を日本は歩むのか、と。
もう一つ、これも同じく政治家や識者と呼ばれる人たちの中には、確かに債務残高は大きいが、借入先は日本国民であるから、結果として日本人が巨額の資産を持っている、との論調も聞かれる。
このような考えも間違っている。国民の資産を負債返却に当てるのは、正気の沙汰ではないからだ。しかし、現にそれが行われているのが、今の日本でもある。国民の資産を税金として集め、国の債務返済に充てているからだ。
日本は今、経済が停滞している緊急事態であるから国民一人ひとりが国債を買って、国を守りましょう――、私から言わせると政府がよく使うプロパガンダ、国民をだますための常套手段にしか見えない。
ただし国が抱える負債、借金は、日本だけの問題ではない。たとえばアメリカは、世界最大の債務国であり、他国と比べても断トツに多い。トップがアメリカ、イギリス、フランス、ドイツと続き、その後に日本という順である。
■日本に「明るい未来」「可能性」は見つからない
アメリカの債務は数年前には22兆ドルほどだったが、新型コロナウイルスによるパンデミックが数年にわたり続いたことで、支出が増大。その支出を補うために、より一層借金が膨らんだことで、2023年に歴史上最大となる、34兆ドル(約4950兆円)を突破。まだまだ増えると予測されている。
当然、利子の額も増えるため、アメリカは度々、債務不履行、デフォルトが懸念されてもいる。アメリカの債務も、日本と同じく大きな問題と言える。私のような年老いたアメリカ人にとってはどうでもいい問題かもしれないが、こちらも日本と同じく、若いアメリカ人は巨額の借金の利息も含め、返済を背負うことになるからだ。
しかし、アメリカと日本では大きく異なる点がある。人口だ。確かにアメリカは世界の中でも断トツの借金王国である。これは、間違いない。しかし、日本の約3倍、3・3億人もの人口を抱えていることに加え、今なお増え続けているからだ。
このような人口動態の違いが、両国の債務状況に大きな影響を与えている。アメリカは債務が増加しているものの、人口も増加しているため、いつかは返済できる可能性がある。一方で、日本にはこのような明るい未来、可能性は見つからない。
■このままでは“解決困難”になる
移民問題については本書の最終章でも改めて私の考えを述べるが、アメリカは積極的に受け入れるとのスタンスだ。そのような新しいアメリカ人が、新たなアメリカ人を出産してもいる。そしてこのような歴史が、連綿と繰り返されている国なのだ。
日本政府も日銀も、そして日本国民も、このような国が滅びるような大問題を将来的に抱えていることを認識しながらも、それを解決しようとしない。その他の日本が抱える課題と同じことが言えるが、この点こそが大きな問題であることを、私は何度も強調したい。
借金は日に日に増える一方で、人口は日に日に減少している。このような状況でうまくいくはずがないことは、ある程度算数を学んだ子どもでも分かることだ。
問題を解決しないまま年月が経過すればするほど、問題の解決は困難になり、より大きな痛みを伴うようになる。政治家が問題を解決しなければ、最終的には市場が解決することになる。そして市場が問題に対処するとき、それは往々にして痛みを伴うものだ。
■日本の国際競争力は低下する
続いての悪影響は、世界における日本の国際競争力の低下である。ゼロ金利政策が続き、国の負債が増え、円安が進行した。円安は輸出企業や観光業には助けになるかもしれない。しかし、円安だけでは国際競争を勝ち抜くには十分とは言えない。むしろ、長期にわたるゼロ金利政策により、国際競争力の低下はさまざまな面で表れるだろう。
通貨安が進むことで、しばらくの間は若い起業家が有利になる市場もあるだろう。しかし、最終的には誰かが代償を支払わなければならない。長期的な視点に立てば、日本の国際競争力は低下する、と私は見ている。
加えて、人材の競争力が落ちている。人口の高齢化に伴い労働力も高齢化しているからだ。労働者にかかる各種経費、高齢者の介護や医療にかかる費用が膨らんでいくだろう。さらには、仕事をしたくても家族の介護に充てる時間を捻出するために、フルタイムで働くことが難しくなる人たちも出てくるはずだ。
そのような人材の中には最悪の場合、仕事を辞めて、介護に注力する必要に迫られるケースもあるだろう。実際、日本の親しい友人からは、日本ではすでにこのような状況になりつつあると聞いている。
■政府・日銀の政策は間違っている
人材の質が下がるとの問題は、国際競争力の低下を招くことはもちろんだが、個人のキャリアという点から考えても、マイナスであることは言うまでもない。
経済の基本原則を忘れてはならない。借入コストの低下と輸出による収益性の向上という一時的な優位性は、いずれ変化するからだ。円安や低金利に、日本経済全体を救うほどの効果はない。
しばらくの間は一部の人々を助けるが、最終的には誰かがその代償を払わなければならない。それは、誰か。次の世代がその代償を払うことになるだろう。
もちろん政府や日銀が、日本の労働者の高齢化に対して取り組んできたことは理解している。日本企業の構造改革についても、日本銀行は努力してきた点は先ほども触れたように、認める。
つまり日銀は、企業の競争力を高め、労働人口の問題にも取り組んできてはいる。しかし、この10年、20年の間に見られた変化は小さなものにとどまっているのが実態であり、これはまさしく失われた30年と同じである。政府や日銀は策を講じているが、成果が出ていない。なぜか? 政策が間違っているからだ。
■「低金利政策」が投資の配分を誤らせた
これも歴史に書いてあることだが、誤った金融政策や経済政策は、常に投資先の配分を誤らせてきた。たとえば低金利。正常な水準の金利であれば投資しなかったであろう対象に、低金利だからと人々は資金を投じる傾向があるからだ。
本書の序章でも論じたように、日本の現状を見るとまさにこのような投資先の誤配分という問題が、顕在化していることは明らかだろう。ここではもう一歩踏み込んで、日銀が長年にわたり継続していた低金利政策、正確にはゼロ・マイナス金利政策が、具体的に日本の貿易収支にどのような影響を与えるかについて、考えてみたい。
低金利政策を行うことで円離れが進む。投資家心理として、金利の高い通貨を持っておきたいと考えるのは、当然だからだ。その結果、円安が進む。すると、日本の輸出企業にとっては一時的に有利に働くかもしれない。
1ドルが100円の場合と、円安が進んだまさに今の日本の状態であるが、150円の状態では、輸出における売上は単純に1.5倍になるからだ。企業全体としての売上高も増えることになるから、投資家はこの企業の業績は好調だ、だから投資しよう、との心理になりがちだ。
しかし、経済や投資というのはそんなに簡単なものではない。売上高は会計上増えるかもしれないが、円安効果により国内での製造などに必要な輸入原材料の価格は、逆に1.5倍に上昇するからだ。
■人口減少社会なのに、住宅数が増えている
このように経済や企業の業績は、為替効果による価格や売上だけで競争するとうまくいかない。たとえば逆に円高局面だからと、銅を使っている日本の企業が大量に銅を海外から輸入すれば、日本国内における銅の価格は下落するからだ。
結局のところ経済も金融政策や政治と同じだ。一時的に良いと見えること、短期的に効果やうまみがあるように感じる施策や政策を行っても、本質を見極めていなかったり、根本の課題解決につながっていたりしなければ、長期的にはうまくいかないのである。
もう一つ例を示そう。不動産業界への投資である。第二次世界大戦で甚大な被害を受けた日本では戦後、住宅が不足していた。アメリカ軍の爆撃により、多くが焼失したからだ。実際、1958(昭和33)年の住宅数は1793万戸であり、同時期の世帯数2131万を下回っていた。
しかしその後はご存じのとおり、日本人は懸命に努力し、世界屈指の経済大国に成長、多くの人がマイホームを手に入れるようになった。実際、先のデータから半世紀後の2008(平成20)年のデータでは世帯数4796万に対し、住宅数が5759万戸と逆転している。
一方で、2005年から日本の人口は減少に転じており、この先も増えることはない。このような状況にあるのだから、もちろん古くなった建物を新しく建て直したりすることは必要だが、必要以上に住宅を建てることはないのは、誰にでも分かる。にもかかわらず、である。日本では総住宅数が一貫して増加している。
■「私は日本株を2023年にすべて手放した」
もう少し補足すると、1958年と2013年のデータの比較になるが、空き家率が2%から13.5%へと上昇しており、空き家の数は820万戸にも上る。これも親しい日本人から聞いた内容であるが、実際、日本では世界屈指の都市である東京であっても、空き家があちらこちらに見られ、大きな社会問題になっているという。
理由は明白。投資目的の貸家の着工数が増加しているからだ(図表1参照)。そして、そのようなビジネスをやりやすい状況をつくっているのが、低金利政策なのである。
このように、低金利政策は資源の配分を誤らせる。金利がゼロになると、人々は奇妙なものに資金を投入するようになるからだ。低金利政策は一見すると、多くの人々にとって魅力的に映るかもしれない。しかし、タダ同然で融資を受けられるという錯覚を生み、安易な借り入れを促進してしまうのである。
そのような錯覚にだまされて実際に投資を行うことが、まさに日本の不動産業界のような、資源配分や社会の歪(ひずみ)を引き起こすのである。実際、これも歴史が物語っているが、日本に限らず歴史上どの国でも低金利政策により、多くの不良債権が発生している。
今回の本では投資についてはあまり触れていないが、読者の中にも投資を行っている人はいるだろう。そのような読者には、特に未来ある若者はぜひとも歴史を学び、単に金利が低いからとか、マーケットが賑わっているからとの理由ではなく、適切な先に投資を行ってもらいたい。
より生産性の高い経済に投資しない限り、そのお金で何をしようと、おそらくいつまで経(た)っても良い結果を生むことはないからだ。実際、私は日本株を2023年にすべて手放した。そして日本よりも高いが正常な金利だと思われ、発展が見込めるシンガポールや中国などに投資をしている。
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ジム・ロジャーズ(じむ・ろじゃーず)
投資家
ロジャーズホールディングス会長。1942年、米国生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。73年にクォンタム・ファンドを設立し、ヘッジファンドという手法にて莫大な資金を運用して財を成した。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び世界三大投資家と称される。『大転換の時代』(プレジデント社)、『世界大異変』(東洋経済新報社)など著書多数。
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(投資家 ジム・ロジャーズ)
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