「本澤二郎の日本の風景」から転載。
転載する理由はこれからの中国経済の行方が日本の政治経済に大きな影響を及ぼすと見ているからである。
私は中国に対して好意的な文章を書くことが多いが、もちろん中国にも無数の欠点や腐敗はあるだろう。だが、全体的に見れば、これからの世界経済を牽引するのは中国であり、さらに10年後にはロシア経済が重要になってくるというのが私の見通しだ。
その中国経済の現状が、下記記事である程度分かるようだから転載した。
すなわち、これまでの中国経済の発展は労働者の低賃金、すなわち労働分配率の低さが原動力だった。しかし、これからはその労働分配率を上げていかないと、国民の不満が爆発する可能性がある。したがって、中国経済はこれまでのような低賃金労働中心から脱皮していくことになるだろう。
だが、すでに中国は「世界の工場」なのである。その有利さを過小評価している人間があまりに多い。これはたとえば以前に書いた、アフリカへの電機製品の浸透状況で、中国製品が他を圧倒していることなどで分かるはずだ。日本は技術で負けたのではなく、マーケティングの誤り、つまり購買動向の読み違いで中国や韓国に負けているのである。要するに電機業界の経営者が馬鹿ぞろいだったということだ。おそらく、自動車産業でも同じ轍を踏むことになるだろう。
もちろん、自らの手で新しい技術を開発する能力に関しては、中国は、現在はまだまだだろうが、その面でも近いうちに先進国に追いつきそうな気がする。
というわけで、若い人間は、これからは中国語でも勉強しておくことである。幸い、日本人は漢文を知っているから、その応用で現代中国語も比較的早く覚えることができるはずである。若者が、漢文など死んだ言葉だと考えていると、未来に生き残れないだろう。
(以下引用)
<富士総研の中国経済見通し>
可(木ヘンがつく)隆という富士総研主席研究員の「中国経済見通し」(1月16日、日本記者クラブ)を聞いた。彼は中国経済の強さを2点指摘した。「欧米の信用危機の背景は貯蓄がないことだが、中国の貯蓄率は国と家計を合わせると52%。これが投資を支えている」「欧米は実体経済がボロボロ。しかし、中国は強い」と。
日本では中国政府の悪口をいう中国人は、右派メディアが重用して有名人になれるようだが、彼もその一人のようだ。しかし、中国の経済の強さは、日欧米に比較すると、確かに上記の2点で圧倒している。
<課題はバブルとインフレ>
リスク・課題は「沢山ある」とも。筆者でも理解できる。何よりも住宅バブルに注目するのだが、現在のところ「価格が下がっている。3~10%の低下でバブルは少し落ち着いている」「しかし、庶民向けのアパートは下がっていない。需要は固い」と分析した。
理由は中国政府による昨年12月と今年1月微調整を実施したためだという。政治的要素もからむ。「胡錦濤主席・温家宝首相の引退花道をつくる」というのだ。「3月20日からの全人代で景気刺激策をとる。その先に春になる、と中国経済人は見ている」とも紹介した。
要するに、彼は3月ごろから内需が出てくる、と予想した。「2012年の輸出は落ち込むが、そんなに心配はない」とも。影響は高級な製品に出るが、クリスマス商戦に見られるように、そうでないものは落ちない」からである。
このほか地方政府が年金生活者に10%アップ、春先から全世帯の所得が増大する。日本と逆である。さらに労働分配率を引き上げる。これについて「中国の分配率はアメリカの70%、日本60%に対して40%と低い。中国は社会主義といえない」と決めつけた。頷くほかない。
「労働組合活動を認めるべきだ」との正論を導く。
<問題は物流の不透明>
中国の工業製品の値段は下がっている。車や家電製品はデフレ。ところが食品の値段が上がっている。冬場は季節的要因がある。それに資材の値上がりによるコストアップ、さらに「物流の不透明さが関係している」と指摘した。
物流レベルでのピンハネが大々的に行われ、これが食品値上げの元凶というのである。さすがは中国人の研究者だ。筆者は初めて知った。生産者の生産意欲を疎外させる原因でもある。
<46人の愛人と90億ドル資産>
中国の中期的リスクにも言及した。それは世界的な現象ともいえるが、格差の異常な拡大である。権力の1極集中が、より格差を拡大させる。腐敗だ。
「24歳まで南京で生活、88年に日本に来た。当時の国有企業の労働者と工場長の生活は大差なかった。30年を経て一変している」
「問題になった鉄道大臣はスイスの銀行に28億ドルも預金していた。また山東省副知事は90億ドル、家族全員アメリカに移住させ、自分は愛人を46人もかこっていた」
腐敗は、東京・インド・ロシアいたるところにはびこっている。脱税天国は各国とも共通といっていい。暴利をケイマン諸島などに隠匿している。現在、アメリカの共和党大統領候補の一人であるロムニーも、利益の一部をここに隠匿していることが発覚、批判を浴びている。
とはいえ中国の腐敗の金額はすさまじい。労働分配率の低さと労働組合の活動停止が、余計に腐敗を増大させる要因であると指摘した。説得力がある。「昔は人民公社が存在した。いま日本のような農協がないのも問題」という。
<格差拡大と税制改革>
格差の拡大の背景には、税制にも問題がある。富裕・特権層に有利な税制の存在は、どうやら間違いないだろう。「金持ちに財産が集中する税制」にも格差要因が潜んでいるからだ。
これに手をつけないと社会混乱を招くことになろう。従来は警察と軍隊で抑え込むという思考が支配層に強かったようだが、もはやインターネット社会はそれを不可能にしている。このことを党も政府も認識、早急な税制の抜本改革を推進すべきだろう。
問題は、腐敗官僚がスイスやケイマン島に資産を隠匿することに、どう対応するのか。特別の査察官制度を導入すればいい。もっとも、買収されるような査察官では意味はないが。これは日本も検討すべきだろう。東電OBの資産チェックも求められているのだから。
隠匿預金をチェックする国際機関の創設も急務かもしれない。そうでないと、不正腐敗に怒る若者の反乱が世界各地で多発することになろう。
<構造的課題>
勇敢な中国人エコノミストは、中国の構造的な課題にも踏み込んだ。彼によると「社会主義をいいながら、市場経済を作った」ことに起因しているという。
結論を言うと、それは「信用欠如の経済」ということになる。身近な例で説明した。「店で買い物をする。100元札を客が支払うと、経理担当者は札が本物かどうかをまず確かめる。一番信用のある紙幣が信用されていない社会」というのだ。
筆者は何度もこうした経験をしている。いつも不思議に思っていた。偽札が横行している中国なのか?彼の説明で少し納得できた。さらに教育にも批判の矛先を向けた。宗教政策にも。そこまで突っ込まれると、正直なところ、ついてはいけないのだが。この世に完璧なものはないのだから。
資本主義も共産主義も、ある意味では破綻している。双方のいいところを拝借するしかないのではないか。
<共青団が台頭>
彼は広東省の経済顧問だという。その関係で中国の権力機構の変動を察知することが出来るようだ。それは人事面に現れるのだが、江沢民派の衰退と共青団の台頭がみられるというのだ。
静かな権力の移行は、恐らく本当だろう。胡錦濤の時代は、習近平時代になっても変わらない。地方に台頭した共産主義青年団に包囲されている北京、という構図なのだ。問題は彼らが腐敗しなければ、格差解消に向けた一大改革に踏み切るだろうと予想したい。
今年後半に古希を迎える胡錦濤は若い。彼の意図する政治・経済改革は、今年から地方から本格化するのではないか、そんな予測を抱かせるトレンドである。
「明るい上海から暗い東京に戻ったばかり」という富士総研の中国人エコノミストの、祖国愛に燃える中国経済分析は大いに参考になった。
2012年1月22日記
転載する理由はこれからの中国経済の行方が日本の政治経済に大きな影響を及ぼすと見ているからである。
私は中国に対して好意的な文章を書くことが多いが、もちろん中国にも無数の欠点や腐敗はあるだろう。だが、全体的に見れば、これからの世界経済を牽引するのは中国であり、さらに10年後にはロシア経済が重要になってくるというのが私の見通しだ。
その中国経済の現状が、下記記事である程度分かるようだから転載した。
すなわち、これまでの中国経済の発展は労働者の低賃金、すなわち労働分配率の低さが原動力だった。しかし、これからはその労働分配率を上げていかないと、国民の不満が爆発する可能性がある。したがって、中国経済はこれまでのような低賃金労働中心から脱皮していくことになるだろう。
だが、すでに中国は「世界の工場」なのである。その有利さを過小評価している人間があまりに多い。これはたとえば以前に書いた、アフリカへの電機製品の浸透状況で、中国製品が他を圧倒していることなどで分かるはずだ。日本は技術で負けたのではなく、マーケティングの誤り、つまり購買動向の読み違いで中国や韓国に負けているのである。要するに電機業界の経営者が馬鹿ぞろいだったということだ。おそらく、自動車産業でも同じ轍を踏むことになるだろう。
もちろん、自らの手で新しい技術を開発する能力に関しては、中国は、現在はまだまだだろうが、その面でも近いうちに先進国に追いつきそうな気がする。
というわけで、若い人間は、これからは中国語でも勉強しておくことである。幸い、日本人は漢文を知っているから、その応用で現代中国語も比較的早く覚えることができるはずである。若者が、漢文など死んだ言葉だと考えていると、未来に生き残れないだろう。
(以下引用)
<富士総研の中国経済見通し>
可(木ヘンがつく)隆という富士総研主席研究員の「中国経済見通し」(1月16日、日本記者クラブ)を聞いた。彼は中国経済の強さを2点指摘した。「欧米の信用危機の背景は貯蓄がないことだが、中国の貯蓄率は国と家計を合わせると52%。これが投資を支えている」「欧米は実体経済がボロボロ。しかし、中国は強い」と。
日本では中国政府の悪口をいう中国人は、右派メディアが重用して有名人になれるようだが、彼もその一人のようだ。しかし、中国の経済の強さは、日欧米に比較すると、確かに上記の2点で圧倒している。
<課題はバブルとインフレ>
リスク・課題は「沢山ある」とも。筆者でも理解できる。何よりも住宅バブルに注目するのだが、現在のところ「価格が下がっている。3~10%の低下でバブルは少し落ち着いている」「しかし、庶民向けのアパートは下がっていない。需要は固い」と分析した。
理由は中国政府による昨年12月と今年1月微調整を実施したためだという。政治的要素もからむ。「胡錦濤主席・温家宝首相の引退花道をつくる」というのだ。「3月20日からの全人代で景気刺激策をとる。その先に春になる、と中国経済人は見ている」とも紹介した。
要するに、彼は3月ごろから内需が出てくる、と予想した。「2012年の輸出は落ち込むが、そんなに心配はない」とも。影響は高級な製品に出るが、クリスマス商戦に見られるように、そうでないものは落ちない」からである。
このほか地方政府が年金生活者に10%アップ、春先から全世帯の所得が増大する。日本と逆である。さらに労働分配率を引き上げる。これについて「中国の分配率はアメリカの70%、日本60%に対して40%と低い。中国は社会主義といえない」と決めつけた。頷くほかない。
「労働組合活動を認めるべきだ」との正論を導く。
<問題は物流の不透明>
中国の工業製品の値段は下がっている。車や家電製品はデフレ。ところが食品の値段が上がっている。冬場は季節的要因がある。それに資材の値上がりによるコストアップ、さらに「物流の不透明さが関係している」と指摘した。
物流レベルでのピンハネが大々的に行われ、これが食品値上げの元凶というのである。さすがは中国人の研究者だ。筆者は初めて知った。生産者の生産意欲を疎外させる原因でもある。
<46人の愛人と90億ドル資産>
中国の中期的リスクにも言及した。それは世界的な現象ともいえるが、格差の異常な拡大である。権力の1極集中が、より格差を拡大させる。腐敗だ。
「24歳まで南京で生活、88年に日本に来た。当時の国有企業の労働者と工場長の生活は大差なかった。30年を経て一変している」
「問題になった鉄道大臣はスイスの銀行に28億ドルも預金していた。また山東省副知事は90億ドル、家族全員アメリカに移住させ、自分は愛人を46人もかこっていた」
腐敗は、東京・インド・ロシアいたるところにはびこっている。脱税天国は各国とも共通といっていい。暴利をケイマン諸島などに隠匿している。現在、アメリカの共和党大統領候補の一人であるロムニーも、利益の一部をここに隠匿していることが発覚、批判を浴びている。
とはいえ中国の腐敗の金額はすさまじい。労働分配率の低さと労働組合の活動停止が、余計に腐敗を増大させる要因であると指摘した。説得力がある。「昔は人民公社が存在した。いま日本のような農協がないのも問題」という。
<格差拡大と税制改革>
格差の拡大の背景には、税制にも問題がある。富裕・特権層に有利な税制の存在は、どうやら間違いないだろう。「金持ちに財産が集中する税制」にも格差要因が潜んでいるからだ。
これに手をつけないと社会混乱を招くことになろう。従来は警察と軍隊で抑え込むという思考が支配層に強かったようだが、もはやインターネット社会はそれを不可能にしている。このことを党も政府も認識、早急な税制の抜本改革を推進すべきだろう。
問題は、腐敗官僚がスイスやケイマン島に資産を隠匿することに、どう対応するのか。特別の査察官制度を導入すればいい。もっとも、買収されるような査察官では意味はないが。これは日本も検討すべきだろう。東電OBの資産チェックも求められているのだから。
隠匿預金をチェックする国際機関の創設も急務かもしれない。そうでないと、不正腐敗に怒る若者の反乱が世界各地で多発することになろう。
<構造的課題>
勇敢な中国人エコノミストは、中国の構造的な課題にも踏み込んだ。彼によると「社会主義をいいながら、市場経済を作った」ことに起因しているという。
結論を言うと、それは「信用欠如の経済」ということになる。身近な例で説明した。「店で買い物をする。100元札を客が支払うと、経理担当者は札が本物かどうかをまず確かめる。一番信用のある紙幣が信用されていない社会」というのだ。
筆者は何度もこうした経験をしている。いつも不思議に思っていた。偽札が横行している中国なのか?彼の説明で少し納得できた。さらに教育にも批判の矛先を向けた。宗教政策にも。そこまで突っ込まれると、正直なところ、ついてはいけないのだが。この世に完璧なものはないのだから。
資本主義も共産主義も、ある意味では破綻している。双方のいいところを拝借するしかないのではないか。
<共青団が台頭>
彼は広東省の経済顧問だという。その関係で中国の権力機構の変動を察知することが出来るようだ。それは人事面に現れるのだが、江沢民派の衰退と共青団の台頭がみられるというのだ。
静かな権力の移行は、恐らく本当だろう。胡錦濤の時代は、習近平時代になっても変わらない。地方に台頭した共産主義青年団に包囲されている北京、という構図なのだ。問題は彼らが腐敗しなければ、格差解消に向けた一大改革に踏み切るだろうと予想したい。
今年後半に古希を迎える胡錦濤は若い。彼の意図する政治・経済改革は、今年から地方から本格化するのではないか、そんな予測を抱かせるトレンドである。
「明るい上海から暗い東京に戻ったばかり」という富士総研の中国人エコノミストの、祖国愛に燃える中国経済分析は大いに参考になった。
2012年1月22日記
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