マスコミに載らない海外記事さんのサイトより
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2023/01/post-12d1b7.html
<転載開始>

2022年12月28日
Brian Berletic
New Eastern Outlook


 アメリカはパトリオット防空ミサイル・システムをウクライナに移管する過程にあるようだ。CNN記事「独占:アメリカはパトリオット・ミサイル防衛システムをウクライナに送る計画を最終決定」は、アメリカは承認し決定が下されてからわずか数日でシステムをウクライナに迅速に出荷すると主張している。


 逆説的だがCNNは、システム運用に必要な多数のウクライナ人を訓練するには数か月かかると認めている。これにより専門家たちは実際は既にシステムに精通しているNATO要員が「ウクライナ人」を装ってシステムを操作すると推測している。


 これは大幅なエスカレーションだ。欧米軍は様々な役割でロシア軍に対しウクライナ全土で密かに活動していると考えられているが、益々多くの高度な兵器を操作する欧米要員は、欧米航空機や戦車を含む他の高度な欧米兵器制御の背後にいる欧米操縦者が紛争に入る点で当初の狙いを越えて計画が膨張するミッション・クリープとなる可能性がある。
 
 パトリオット・ミサイルを送る決定は電力網を含む軍事および軍民両用インフラを標的としたウクライナ全土でのロシア・ミサイルとドローン攻撃の着実なテンポに続くものだ。欧米メディアはウクライナ自身のソ連時代防空システムの数が減り、迎撃ミサイルが不足していると認めている。


 フィナンシャル・タイムズは記事「軍事ブリーフィング:航空戦激化はウクライナの武器備蓄を枯渇させる」で次のように認めている。


...ウクライナ防空の主力であるS300とブク・システムの弾薬と予備は減少している。ロシアはウクライナ防空システムを使い果たさせるためX-55核ミサイル弾頭を通常弾に交換して発射しているというイギリス軍事諜報機関の主張を確認した。



 この記事はシステム用の追加弾薬と予備部品購入は実用的でないと述べている。またウクライナに独自防空システムを提供する欧米の取り組みにも言及しているが、そのようなシステムは限られた量と弾薬への入手制限という点で同様の問題に苦しんでいる。


 フィナンシャル・タイムズはドイツの「ゲパルト」自走対空砲を「非常に効果的」だと書いている。その主張を立証する証拠は提供されず、皮肉なことに記事が公開された直後、スイスがウクライナに追加弾薬を供給するのを望まなかったのと同様ゲパルト・システムの弾薬不足が報告された。


 アナドル通信社によるとスイスの決定を補うためドイツのラインメタル社は弾薬生産を拡大すると発表したが生産は早くとも6月まで開始されずウクライナは少なくとも7月まで弾薬の受け取りを開始せず、それもドイツ政府がゲパルト35mm弾を注文した場合に限る。


 IRIS-TとNASAMS、2つの欧米の短距離・中距離防空ミサイル・システムの少数がウクライナに提供されているが数は数年間に徐々に増加している。これはウクライナの減少しつつあるソビエト時代の防空システムを置き換えるには遅すぎる速度だ。


 この現実を考えるとパトリオット・ミサイル・システムをウクライナに移管するというアメリカ決定はワシントンが彼らが違いを生みだせると思っているからではなく単にアメリカや同盟諸国が代わりに送るべきこれ以上適切なものや数がないからかもしれない。


 しかしパトリオット防空システムでさえ自身の深刻な弾薬不足からドローンや巡航ミサイルに対するウクライナ防衛を提供できないことに至るまでの問題に悩まされている。


 パトリオット・ミサイル:少なすぎて弱すぎる?


 「ロシア・プロパガンダ」どころかパトリオットの欠点は何年間も欧米マスコミに報じられてきた。アルジャジーラは2022年早々の記事「サウジアラビアは『数カ月』で迎撃ミサイルを使い果たすかもしれない」でパトリオット迎撃ミサイルのサウジ備蓄が不足しており、アメリカがそれを埋め合わせるほど製造できないのを認めている。


 ウォールストリート・ジャーナルは2022年3月に追加ミサイルが最終的に取得されたと報じているがアメリカが更に製造できたためでなく代わりにアメリカがサウジアラビア近隣諸国にミサイルを自国備蓄からサウジアラビア防空軍に移すよう説得したためだ。


 ディフェンス・ニュースによるとミサイル不足が深刻化する中ロッキード・マーティンは2018年にミサイルの年間生産量を250から500に倍増すると約束した。2021年までに、カムデン・ニュースはロッキードが既存の生産施設に新たに500平方フィート拡張を建設した後、2024年までに年間85,000発のミサイル目標を達成する予定だと報じている。


 しかし年間500発のミサイルでさえ、そして全てのミサイルがその後ウクライナに直接送られたとしてもロシアが継続中の特別軍事作戦の一環として使用している巡航ミサイル、ドローンその他の長距離精密兵器の数に匹敵するのに十分ではない。


 ニューヨーク・タイムズ紙は「ロシアはウクライナに対し古いウクライナ・ミサイルを使用していると将軍は言う」という見出しの記事で、ロシアが月に少なくとも40発の巡航ミサイルを製造している可能性が高いと主張するウクライナ情報源を引用している。年間を通じると巡航ミサイル480発になる。パトリオット・ミサイルシステムが有効性100%からほど遠いことを考えると、480発のロシア巡航ミサイルから500発のパトリオット・ミサイルがウクライナを防衛できるという考えは非現実的だ。


 しかしロシアの年間ミサイル生産量はもっと多い可能性がある。BBCは10月以降だけでも、ロシアがウクライナ全土の標的に1,000発以上のミサイルとドローンを発射したと報じている。これはロッキードが毎年生産する予定のミサイル数の2倍だ。


 この現実は非常に明白なので欧米専門家はパトリオット・ミサイルがもたらす影響に関する疑問について公にコメントしている。Breaking Defenseは記事「パトリオット・ミサイル・システムはウクライナの万能薬ではないと専門家は警告」でパトリオット・ミサイルのウクライナ移転を「政治的支援のジェスチャー」だと呼んだ戦略国際問題研究所のミサイル防衛専門家トム・カラコを引用している。


 記事はまた、カラコを引用して、次のように述べている。


 「これらの希少で貴重な資産には慎重さが必要だ」とカラコは述べた。「私たちは装置を一式しか送らないが、一度そこにおいたら、おそらく戻って来るまい。そして彼らが軍需品を使い始めたら彼らは更に多く要求するだろう。そして私たちが使えるPAC-2やPAC-3[ミサイル]が何トンもゴロゴロしているわけではない。


 カラコはまたパトリオットは「台湾紛争を抑止する」ため必要だと指摘し、ロシアとの代理戦争における欧米兵器備蓄の着実な枯渇は地政学的真空の中で起きておらず世界の他地域、特に東アジアで他の国々を脅かす欧米の能力に影響を与えている事実を強調する。


 同じ記事はパトリオット・ミサイルが迎撃しようとしている比較的安価なドローンと比較してどれほど高価かも指摘した。しかし、それもパトリオット・ミサイル・システムがそれらを迎撃できたとしてもだ。


 NBCニュースは2019年の記事「アメリカのパトリオット・ミサイルがサウジアラビア石油サイトを攻撃するドローンと巡航ミサイルを阻止できなかった理由」でアメリカが提供するパトリオット・ミサイル・システムがサウジアラビア石油生産施設に対しイエメンが使用した巡航ミサイルと「三角形」ドローンに対しどう失敗したか指摘している。


 パトリオット・ミサイル部隊が施設を守っているにもかかわらずサウジアラビア軍はドローンを撃墜する試みに失敗し小火器発砲に頼った。ある攻撃でサウジアラビアの毎日石油生産量の半分が一時的に混乱した。


 記事はこう主張している。


 ドローンやミサイルはレーダーで探知できるがレーダー反射断面積が小さい傾向があり、地表近くを飛ぶ可能性があるので検出範囲が大幅に減少し遠くから発射する可能性がある。また操作が簡単で、レーダーとパトリオット部隊間の対象範囲の間隙につけこみかねない。またドローンや巡航ミサイルは、200万ドルや300万ドルのパトリオット・ミサイルより安いことが多く、攻撃するドローンの群れよりもパトリオット供給は遙かに早く枯渇する可能性がある。


 NBCニュースは、ウクライナに移送されたパトリオット・ミサイルシステムが直面する遙かに大きく、より高度な規模の脅威を正確に説明している。


 この記事はパトリオットが防御に適さない脅威に対抗するためアメリカが取っている広範な措置(2021年時点で配備されつつある措置)について説明しているが、アメリカが準備している、またはウクライナに大量に送れる措置ではない。


 アメリカとNATO同盟国は戦場になる可能性がある場所での優位より、戦闘機を使用して制空権の達成・維持を優先し地上ベースの防空システムを長い間無視してきた。空軍に似たものが欠如した敵との数十年の「小さな戦争」での戦いは問題を悪化させただけだ。


 欧米がウクライナを武装させ続けるにつれ直面する現在の武器と弾薬不足を解決するのには何年も、多額の金もかかるのと同様、ウクライナの要求の量と質の両方で防空システムを構築するにはウクライナに残されたより時間がかかり欧米が費やそうとしているより多くの資源が必要だ。


 戦争は優れた兵站、軍事技術、戦略で勝利するのは周知の事実だが「政治的支援のジェスチャー」で戦争に勝った時のことを想起するのは困難だ。


 Brian Berleticは、バンコクを本拠とする地政学研究者、著者。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。


記事原文のurl:https://journal-neo.org/2022/12/28/us-patriot-missiles-in-ukraine-a-desperate-dangerous-escalation/


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 Scott Ritter


The American Military is not Prepared