るいネットさんのサイトより
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=295920
<転載開始>
 近年、燃料としてバイオマスが見直されている。しかし、注目されているのは燃料だけではない。

 木材のセルロースが持つポテンシャルが注目を浴び、新素材の探求が盛んに進められている。そんな記事を紹介します。
 
 また、この探求には、まさに自然と対置し・育み・ありがたく恩恵を受けてきた日本人が羅針盤となるのに適任である。と語っています。


引用 JP Press 矢野 浩之 より

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 セルロースナノファイバーは、鋼鉄の5分の1の軽さで、その7~8倍の強度を有する幅4~20nm(ナノメートル)のナノ繊維である。
 線熱膨張はガラスの50分の1。石英ガラスに匹敵する。
 
 こう書くと極めて特殊な繊維のように思われるが、この地球上に1兆8000億トンあると言われている木質バイオマス資源の約半分を占める、とても身近な素材である。
 木材や竹といった植物の細胞はセルロースナノファイバーが鉄筋となりリグニンがコンクリートの役割を果たしている。そのコンクリートを取り除いて、細胞一つひとつに解したものが、コピー紙の原料となるパルプである。
 
 我が国では、年間2000万トン近い紙用パルプが流通しているが、それらはすべてセルロースナノファイバーの集合体である。
 
 電子顕微鏡の開発によってナノの世界を見ることができるようになると、植物細胞壁が均一な結晶性のナノ繊維でできていることが知られるようになった。
 
 京都大学の桜田グループによるX線解析からは結晶弾性率は鋼鉄の3分の2の140GPa(ギガパスカル)と見積もられた。カナダ・紙パルプ研究所のペイジ(Page)氏は、パルプを1本引っ張って1.7GPaの強度(自動車用鋼板の5倍)があることを30年も前に報告している。
 
 同じ時期に、楽器用木材の研究では、細胞壁中におけるセルロースナノファイバーの配列(配向)が、用材としての好適を決めていることが報告されている。
 
 しかしながら、それを木質バイオマスから抽出し、ナノ繊維として利用するという研究が盛んになったのはナノテクノロジーが言われ出した2000年代に入ってからである。ナノ素材としての研究の歴史は、まだ10年ほどと言ってよい。
 
 しかし、この10年の動きは目覚ましい。軽量、高強度、低熱膨張といった優れた特性を示すセルロースナノファイバーは、次世代の大型産業資材あるいはグリーンナノ材料として注目され、2004年以降、論文発表や特許出願はうなぎ上りに増えている。

〇 透明基盤から自動車、人口血管まで用途が幅広い高機能素材
 
 中心となっているのは、森林資源が豊かで製紙産業が盛んな北欧、北米、そして日本である。最近は、中国のキャッチアップも無視できなくなっている。
 2011年からは、フィンランド、カナダ、米国の主導で国際標準化の議論も始まり、まさに国家レベルでの競争の様相を呈している。
 
 セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル(パルプやセルロースナノファイバーを高濃度の硫酸で処理して得るセルロース純度の高い結晶性素材)の、高比表面積、可食性、軽量・高強度、低熱膨張性、生分解性、生体適合性などの特徴を生かし、様々な用途開発が進められている。
 
 可視光波長(400~800nm)に比べ十分に細いセルロースナノファイバーは可視光の散乱を生じないため、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの透明樹脂を、その透明性を大きく損なわずに補強できる。
 
 高強度で低熱膨張、しかも自由に曲げることができる透明の繊維強化材料である。有機ELディスプレーや有機薄膜太陽電池の透明基板として研究開発が進んでいる。
 
 TEMPO*触媒を用いた酸化処理により幅10nm以下にまで解繊したセルロースナノファイバーのフィルムは、それだけで高い透明性を示す。適度な透湿性を保ちながらPETやPVCの100分の1以下の酸素ガス透過性を示すことから、包装容器のコーティング素材として検討されている。

 軽量・高強度繊維の特性を生かした構造用途への検討も進められている。ナノファイバーシートにフェノール樹脂を注入後、積層、硬化すると繊維率約90%で鋼鉄の5分の1の軽さで鋼鉄なみの強度の成形体が得られる。

 また、化学変性したセルロースナノファイバーを熱可塑性プラスチックに10%混ぜると、強度は2~3倍向上する。目指す用途は、軽量、高強度の特性が求められる自動車など輸送機用の構造部材である。
 そのほかに、紙の表面平滑化や紙力増強、食品・化粧品用添加剤、人工血管や人工腱といった医療用途、触媒等の担持体、フィルター素材、二次電池(蓄電池)セパレーターへの応用についても開発が進んでいる。
 
 細胞壁中のリグニンとセルロースナノファイバーの相互作用や細胞構造をうまく利用することで、より高機能で安価な材料の開発も可能であろう。
 
 日本人の「自然に対する感性」が強みになる先進的バイオ素材の開発
 植物材料に基づくグリーンイノベーションは時代の要請である。セルロースナノファイバーには、それを可能にするポテンシャルがある。その際、植物が環境に優しいプロセスの中で作ってくれたものを、人間が使わせていただく、という姿勢が大事である。
 
 すべての生き物を尊敬してその力を借りる、という姿勢である。言い換えれば、セルロースナノファイバーをはじめとする木質バイオマスの利用研究は、その作り手である樹木の力の借り方と言ってもよい。
 
 どのようにこの材料を使うのが作り手の思いに添うのか、樹木はどうありたいと思ってこの構造を作り出したのか、ということを一生懸命考え、その機能を借り受ける。
 
 その際、生物材料の構造や特性には、生物が長い進化の過程で作り出した必然があることを忘れてはいけない。その必然を損なうことなく材料の形を変えていくことで、省エネルギー的に高機能材料を製造することができる。
 インターネットを通じて情報を等しく得ることができるこの時代、先進的バイオ素材の開発のカギを握るのは、自然に対する感性である。
 
 日本人には、自然と調和したものづくりについて、西洋文明が入ってくるはるか昔から、長い時間をかけて培ってきた感性がある。豊かな四季折々の自然の中で、体に染み付いてきた独特な感性である。
 それを大切にして、先進的バイオ素材を作っていくことで、日本のプレゼンスを世界に示すことができる。国土の7割が森林に覆われた日本には、そのための資源もあることも忘れてはいけない。
 
 日本には資源も知恵もある。

<転載終了>