経済学者の植草氏と社会学者の白井氏による対談本。副題にある通り、経済・政治・外交・メディアの現状についてざっくばらんに論じている。植草氏の金融・経済に精通した解説と、白井氏の実体験に基づく考察が光る。
https://www.amazon.co.jp/dp/4828426302
例えば、「デフレ」という言葉はトリックだと植草氏は説く。NHKがこの言葉をニュースで用い始めたのは、1998年ごろ。橋本龍太郎政権下で強行された消費税の3%から5%への引き上げによる金融危機の責任を日銀に押し付けるため、旧大蔵省が流布させたと指摘する。
2001年にリチャード・ヴェルナーが『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』(草思社)を刊行し、話題を呼んだ。私の周りにもヴェルナー信奉者が散見されたが、植草氏によれば、この大掛かりな販促の首謀者も財務省だと看破する。財政再建のために消費増税した同省は正しく、日本経済が大混乱に陥ったのは日銀の政策対応の失敗にあるとのキャンペーンだったという。財務省のふてぶてしさに、あきれ果てる。
エリートの堕落について話が及ぶと、白井氏が次のように回想する。「大学時代、官庁へ入りたがる東大生が集まるサークルと交流したことがあるんです。非常に気持ちの悪い人たちでした。学生のくせになぜかすでに官僚気取りで物を言う、歪(ゆが)んだエリート意識の塊みたいな人たちでした。そういう人間が集まれば、どんな役所になるか、考えるまでもない」と突き放す。
最も痛快だった節の見出しは、「害悪でしかない早稲田の政治サークル」。永田町での活躍を夢見て人生の進路を取る人種はどうしようもないとのくだりで、白井氏が学生時代にキャンパスで見た政治サークルの連中を描写する。
「政治学じゃなくて政治サークル。勉強はしないが政治論議、それも憲法問題と国防問題をやたらに好む傾向があった」「彼らはなぜかいつもスーツを着ていた。学生時代から政治ごっこをやって、政治家にコネを作って、政治家になりたいと思っている滑稽(こっけい)な連中」。その手の人種に心当たりがあり、思わず膝を打った。
政権交代や疑似政権交代が起きても経済の低迷から抜け出せないわが国。白井氏は「そもそも、小泉(純一郎)政権が事実上の政権交代だった」と斬新な指摘をする。自民党は伝統的に農村と財界という利益が相反する支持基盤を持っていて、都会の先進産業が稼いだ金を地方に分配した。この構図を象徴するキャラクターが田中角栄元首相であり、小泉がぶっ壊した「自民党」とは田中派的なものだったと分析する。面白く、説得力のある説明だ。
白井氏の人物評は遠慮がない。小池百合子・東京都知事について「何の思想もありませんし、ただサイコパス的に野心が強いだけ」「日米安保体制に基づく異常な対米従属体制を変えようなどという信念は1ミリもない」。立憲民主党の枝野幸男元代表に対しては、「民主党政権の失敗についても、『あれは、鳩山と小沢がヘタを打ったんだ、あいつらが悪いんだ』くらいの認識しか持っていないのでしょう。要するに、枝野氏も自民党がお似合い」と両断する。
興味深い箇所も幾つかあった。その一つは、「ドイツの日本化」(白井氏)という表現。ウクライナとロシアによるミンスク合意締結にはもともと、ドイツのメルケル首相(当時)が中核的役割を果たしたとされる。バルト海の底に天然ガスのパイプライン、ノルドストリームを敷設したことも、ロシアとの結びつきを密にした。にもかかわらず、紛争が勃発すると、合意を無視してウクライナに武器供与を始めた。「ドイツの日本化」とは、米国の顔を立てることに終始するとの意だ。
白井氏はLGBTQ理解増進法を問題視しない「リベラル」勢力に失望し、植草氏もウクライナ問題やワクチン政策について左派勢力の姿勢に不満を漏らす。私見では左翼イデオロギーと根本的に関係があると捉えるが、検討すべき重要な課題である。
2人とも、終盤で対米従属からの自立を主張する。「命を賭してそれを追求した首相は、石橋湛山だけだったかもしれない」との視点は新鮮だった。
落胆したのは、白井氏がコロナ茶番に無頓着であること。「イベント201」も世界軍人体育大会も知らなかった。ワクチンを4回接種しているそうだ。
大学にいると、外の世界の動きに鈍感になるのか。わが国を代表する論客だと思っていただけに、残念だ。植草氏のような嗅覚の鋭い識者と交流を深め、覚醒することを願う。
https://www.amazon.co.jp/dp/4828426302
例えば、「デフレ」という言葉はトリックだと植草氏は説く。NHKがこの言葉をニュースで用い始めたのは、1998年ごろ。橋本龍太郎政権下で強行された消費税の3%から5%への引き上げによる金融危機の責任を日銀に押し付けるため、旧大蔵省が流布させたと指摘する。
2001年にリチャード・ヴェルナーが『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』(草思社)を刊行し、話題を呼んだ。私の周りにもヴェルナー信奉者が散見されたが、植草氏によれば、この大掛かりな販促の首謀者も財務省だと看破する。財政再建のために消費増税した同省は正しく、日本経済が大混乱に陥ったのは日銀の政策対応の失敗にあるとのキャンペーンだったという。財務省のふてぶてしさに、あきれ果てる。
エリートの堕落について話が及ぶと、白井氏が次のように回想する。「大学時代、官庁へ入りたがる東大生が集まるサークルと交流したことがあるんです。非常に気持ちの悪い人たちでした。学生のくせになぜかすでに官僚気取りで物を言う、歪(ゆが)んだエリート意識の塊みたいな人たちでした。そういう人間が集まれば、どんな役所になるか、考えるまでもない」と突き放す。
最も痛快だった節の見出しは、「害悪でしかない早稲田の政治サークル」。永田町での活躍を夢見て人生の進路を取る人種はどうしようもないとのくだりで、白井氏が学生時代にキャンパスで見た政治サークルの連中を描写する。
「政治学じゃなくて政治サークル。勉強はしないが政治論議、それも憲法問題と国防問題をやたらに好む傾向があった」「彼らはなぜかいつもスーツを着ていた。学生時代から政治ごっこをやって、政治家にコネを作って、政治家になりたいと思っている滑稽(こっけい)な連中」。その手の人種に心当たりがあり、思わず膝を打った。
政権交代や疑似政権交代が起きても経済の低迷から抜け出せないわが国。白井氏は「そもそも、小泉(純一郎)政権が事実上の政権交代だった」と斬新な指摘をする。自民党は伝統的に農村と財界という利益が相反する支持基盤を持っていて、都会の先進産業が稼いだ金を地方に分配した。この構図を象徴するキャラクターが田中角栄元首相であり、小泉がぶっ壊した「自民党」とは田中派的なものだったと分析する。面白く、説得力のある説明だ。
白井氏の人物評は遠慮がない。小池百合子・東京都知事について「何の思想もありませんし、ただサイコパス的に野心が強いだけ」「日米安保体制に基づく異常な対米従属体制を変えようなどという信念は1ミリもない」。立憲民主党の枝野幸男元代表に対しては、「民主党政権の失敗についても、『あれは、鳩山と小沢がヘタを打ったんだ、あいつらが悪いんだ』くらいの認識しか持っていないのでしょう。要するに、枝野氏も自民党がお似合い」と両断する。
興味深い箇所も幾つかあった。その一つは、「ドイツの日本化」(白井氏)という表現。ウクライナとロシアによるミンスク合意締結にはもともと、ドイツのメルケル首相(当時)が中核的役割を果たしたとされる。バルト海の底に天然ガスのパイプライン、ノルドストリームを敷設したことも、ロシアとの結びつきを密にした。にもかかわらず、紛争が勃発すると、合意を無視してウクライナに武器供与を始めた。「ドイツの日本化」とは、米国の顔を立てることに終始するとの意だ。
白井氏はLGBTQ理解増進法を問題視しない「リベラル」勢力に失望し、植草氏もウクライナ問題やワクチン政策について左派勢力の姿勢に不満を漏らす。私見では左翼イデオロギーと根本的に関係があると捉えるが、検討すべき重要な課題である。
2人とも、終盤で対米従属からの自立を主張する。「命を賭してそれを追求した首相は、石橋湛山だけだったかもしれない」との視点は新鮮だった。
落胆したのは、白井氏がコロナ茶番に無頓着であること。「イベント201」も世界軍人体育大会も知らなかった。ワクチンを4回接種しているそうだ。
大学にいると、外の世界の動きに鈍感になるのか。わが国を代表する論客だと思っていただけに、残念だ。植草氏のような嗅覚の鋭い識者と交流を深め、覚醒することを願う。
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