- 2025/01/28
(以下引用)
宗教と聖書で分かる、超大国アメリカがユダヤ国家イスラエルを偏愛する理由
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イスラエル寄りの姿勢を崩さないトランプ氏(写真:AP/アフロ)
2025年1月19日、イスラエルのネタニヤフ政権とイスラム主義組織ハマスの停戦が発効した。停戦案はバイデン前米大統領が昨年5月に提示したものと大差ない。ネタニヤフ首相は、アメリカがイスラエルに強く出られない足元を見透かし、のらりくらりとバイデンの要求をかわし続けた。 【写真】キリスト教徒が憧れるガリラヤ湖。淡水湖としては湖面の海抜が最も低い ハマスが停戦を受け入れたのは、トランプ新大統領が就任前から「人質を解放しないと地獄をみるぞ」とハマスを脅し、ネタニヤフ首相にも露骨な圧力をかけたからだ。トランプ氏は一方で、次期駐イスラエル米大使にキリスト教福音派の牧師出身で、親イスラエル強硬派の大物ハッカビー氏を指名するなど、イスラエル支持の姿勢を崩さない。 アメリカとイスラエル、両国の同盟関係はなぜこれほど強固なのか。なぜ超大国アメリカの方が中東の小国イスラエルにこれほど気を使うのだろうか。『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』(河出書房新社)を上梓した広島修道大学教授(専攻は国際政治・報道)の船津靖氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト) ──旧約聖書と新約聖書の関係について教えてください。 船津靖氏(以下、船津):旧約聖書はユダヤ人の聖書です。ユダヤ人が紀元前6世紀の有名な「バビロン捕囚」頃から前2世紀頃までに編集した文書で、ヘブライ語で書かれています。天地創造、エデンの園のアダムとエバ、ノアの箱舟といった日本人にもよく知られた物語が書かれています。 これに対して新約聖書は主に紀元1世紀後半にギリシア語で書かれました。イエス・キリストが新しい教えを広め、エルサレムで十字架にはり付けられて処刑された後、死から復活する物語を書いた4つの福音書と、原始キリスト教をローマ帝国に広げようとした使徒パウロの書簡で構成されています。 「旧約聖書」や「新約聖書」はキリスト教徒側からの呼び方です。「新約」はユダヤ人にとっては聖書ではありません。でも、キリスト教徒にとっては「旧約」も「新約」もどちらも聖書です。キリスト教徒から見ると旧約聖書は、神と選民ユダヤ人の間で交わされた古い約束です。旧約は神が選民ユダヤ人だけを救済するという約束です。 キリスト教徒は、旧約聖書を救世主(メシア、キリスト)であるイエスの福音によって終わった約束と考えます。イエスの死からの復活を信じる人は、世界の終わり(終末)に復活して永遠の命を得る。福音を信じた人はすべて、神との新しい救済の計画に入るのです。 ──イエスもユダヤ人ですよね? 船津:はい、ユダヤ人です。イエスはイスラエル北部のガリラヤ湖近くの山村ナザレで、大工(石工)の息子として生まれ、ユダヤ教徒として育ちました。 イエスはユダヤ教の改革者という意識でした。当時、ユダヤ国家があったパレスチナはローマ帝国に支配され、エルサレム神殿の祭司や官僚が占領軍のローマ帝国と結託して人々を搾取していました。「これは本当の神の教えではない」と考えたイエスが新しい教えを述べたのです。 ──「ユダヤ人」の定義について、冒頭で説明されています。ユダヤ人とは、どのような人を指すのでしょうか?
■ ユダヤ人の定義とは 船津:「旧約聖書の民」であり、「ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の犠牲者」です。そういう民族意識、帰属意識(アイデンティティ)を持つ人々です。 ユダヤ人は旧約聖書を編集し、1世紀にローマ帝国に反乱を起こして敗北し、エルサレム神殿を破壊されて故国を失いました。地中海沿岸やヨーロッパに散り散りになり、西洋キリスト教社会で差別・迫害されました。 第二次大戦では、ナチス・ドイツによって600万人もの人が無差別に殺害されました。当時、ヨーロッパにいたユダヤ人が900万人ですから、3分の2が殺されたということです。 同時に、アメリカなどに亡命した人や移民になった人もいました。1948年にユダヤ人はイスラエルの独立を宣言し、敬虔なキリスト教徒で聖書に精通したトルーマン米大統領がただちに承認しました。 現在、全世界におよそ1600万人のユダヤ人がいて、そのうちざっと700万人がイスラエルに、600万人弱がアメリカに住んでいます。 相対性理論のアインシュタイン、『資本論』のマルクス、精神分析のフロイト、『変身』で有名な小説家のカフカをはじめ、著名なユダヤ人がたくさんいます。 ユダヤ人には肌の白い人も褐色の人もいて身体的な特徴はさまざまです。ユダヤ人は人種ではなく、まず「ユダヤ教徒」という宗教的な分類で定義される人々です。西洋キリスト教社会では、「キリスト教徒ではない異教徒」「オリエント(中東)から来たよそ者」と見られます。 ■ 生まれた男児の包皮を切る「割礼」も ──ユダヤ人をどうやって見分けるのでしょうか。 船津:キリスト教国では、子どもの頃からみな教会に行き、クリスマスも祝う。でも、ユダヤ教徒は教会員になれず、異教徒イエスの誕生を祝うクリスマスの行事にも参加できません。ユダヤ人であることはすぐにわかります。 ユダヤ教にはいくつもの決まり(戒律)があります。安息日が金曜の日没から土曜の日没まで。休んでよい日というより、仕事をせず休まなければならない日です。 旧約聖書の天地創造で、神様が7日目に休んだことに対応しています。豚、エビ、カニなどを食べない食事規定もあります。男児が生まれて8日目に性器の包皮を切る「割礼」もあります。 安息日には異教徒と一緒に働くことができないため、外敵と共に戦うことに困難が生じます。よく「仲が悪くなると一緒にメシを食え」と言いますが、食事規定のため一緒に食事をすることも難しい。つまり、ユダヤ教のルールはユダヤ民族が周辺の異民族の中に消えてゆかないための制度、社会的な装置なのです。
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