という現実を見れば、内田のような楽観論がいかに妄想的かが分かる。そしてこれはアメリカ国民が選挙システムを信じなくなっているということで、「世に倦む」氏が言うような「知性の劣化」などではまったく無い。むしろアメリカ人の知性が向上したのである。
民主党支持派のほうが「政治家の暗殺を肯定」する割合が高いのは、質問が「国や民主主義を脅かす政治家の暗殺」という誘導的な内容だからだろう。民主党は自党こそが民主主義の牙城だと自認しているから、この質問は「共和党代議士の暗殺を肯定するか?」という質問なのであるwww
ただ、「レジリエンス」のようなカタカナ英語(英語か?)を文飾に使うインテリ臭は内田も「世に倦む」氏も同じで、うんざりする。文脈から推定して「統合」とか「(弁証法的)止揚」に類した意味だろうか。
内田樹が、アメリカは建国以来分断が常態の国であり、分断を抱えながら歴史的に成長したのだとツイートしている。この見方には、今回もまたアメリカらしく分断を見事に超克して、アメリカはさらに大きく飛躍するだろうという楽観的な展望が滲んでいる。最近、こうしたアメリカ礼賛論の放射と連発が日本のマスコミで多く、大越健介が毎晩のように絶叫し、NHKの田中正良とその子分も声高に強調している。分断なんて大した問題じゃない、アメリカは常にそれを克服する、アメリカは偉大だというシンプルでプリミティブな説教がシャワーされる。大越健介と田中正良の言説は、CIAに指令された刷り込み任務の遂行だろうと内情を了解できるが、内田樹が同じ誦経を披露するのには閉口させられる。
レジリエンスと内戦
内田樹は、アメリカには分断を克服するレジリエンスがあると言う。ひとまずその認識を一般論として肯定するとして、果たして、今回の分断を解消して統合を回復する姿とは具体的にどのような過程と動態なのだろう。それほど安易な楽観論で描けるのだろうか。前回の内戦とその後の新生アメリカの発展史は、まさしく内田樹の言うレジリエンスの姿だろう。現在の観点から積分的に総括すれば、それはハッピーでサクセスフルな新生と成長の歴史である。だが、そこに微分的に接近視すれば、民間人を含めて70万人以上の犠牲を出した巨大な惨事に他ならない。過酷な戦乱があり、北軍の勝利があり、70万人の犠牲があったから、アメリカは新しい統合を実現して今日を築いた。
内田樹の論理に従えば、レジリエンス再現のために、また大きな内戦をやらないといけないという結論になる。内戦を通じて再び分断を克服するという構図と進行になる。内戦がどれほど悲惨な地獄か、内田樹は分かっているのだろうか。内戦下にあるイエメンやシリアやソマリアで、実際に人々がどれほどの悲劇に直面し、苦難と絶望の中で傷つき嘆き悲しんでいるか、ユーゴやルワンダで何が起きたか、そこに思いを馳せる知性があれば、アメリカのレジリエンスなどと無邪気に楽観論は言えないはずだ。アメリカの内戦の危機は、アメリカでは現実の問題である。暇つぶしのネタではなく、与太話の類ではない。分断とレジリエンスの本来性があるからこそ、アメリカ人は恐怖しているのだ。

20年以上深まり続ける分断
素朴に内田樹に質問を発したいが、内戦を経ることなしに、どうやってアメリカは国家の新生と統合を実現するのだろう。レジリエンスの法則に純粋に従えば、アメリカは内戦するしかないはずだ。内戦によって分断の矛盾を止揚し、一段階高い融合と転生に至る弁証法的発展のプロセスを辿るしかないという必然性になる。すなわち、南北戦争で70万人の犠牲の上に北軍が勝利したように、ブルーステートがレッドステートに軍事的に勝利し、レッドステートを屈服させ、レッドステートの価値観を殲滅一掃し、ブルーステートの価値観に合衆国を一元化するという物語と帰結しかないはずだ。内戦以外に分断を克服する道はあるのか。内田樹に問いたいし、内田樹を信奉する左翼に尋ねたい。
中間選挙の報道の中で、幾つかの接戦州においてはディベートが行われなかったという指摘があり、いつものようにアメリカ民主主義の劣化が言われた。ディベートの質が下がり、選挙戦がカネ集めとネガティブキャンペーン一色に収斂するという状況は、もう20年ほど前から始まっていたように記憶する。ブルーステートとレッドステートの分裂・分割は、ブッシュとゴアが戦った2000年の大統領選時に地図に描かれて解説されていた。ブッシュがやたら聖書の言葉を頻用し、宗教右派の存在感が高まって奇妙な感覚を覚えたのもその頃だ。2008年に黒人のオバマが登場し、分断と劣化は改善に向かうかに見えたが、実際の進行は逆に出て、分断と劣化は年を追うほどに絶望的に悪化している。

知性の劣化と対話の不可能
分断と劣化には相関関係がある。と言うより、問題の本質は知性の劣化の方なのではないか。アメリカの劣化の問題は、グレアム・アリソンの『米中戦争前夜』の中でも言及されていて、指導者含めてアメリカのエリート層が過去と比べて著しく劣化し、その点が中国と戦う上での懸念材料だとグレアムが嘆息していた。8月放送の報道1930で紹介された世論調査が示していたところの、「政治的問題の解決に暴力を使ってもよい」と回答した割合が、民主党・共和党支持者の50代以下男性で40%を超えるという異常な数字には驚かされる。だが、よく考えれば、誹謗中傷のテレビ広告の乱発や、誹謗中傷の応酬だけで埋まるテレビ討論会は、殴り合いの一歩手前というか、市民社会の言論とか討論ではなくて、事実上、暴力のゲームである。
コメント