「田中宇の国際ニュース解説」の無料版部分から(笑)転載。
田中宇は、デビュー当時は冴えた論客だったが、「隠れ多極主義」と「一国覇権主義」の対立が米国内部にあるという持論に固執し始めてからは世界情勢分析が生ぬるくなり、ブログを有料化してからは、私はほとんど見ることも無い。金を払ってまで読む内容ではないからだ。彼に限らず、だいたいのブロガーは金を取り出すと駄目になる傾向があるのだが。ついでだが、私のブログに何かのCMが貼られていても、それはブログの場を提供している誰かが勝手に載せているだけである。店子の私としてはそれに対して大家に文句が言える立場ではない。
米国支配層内部に対立があるという論法で行けば、米国政治のあらゆる矛盾が簡単に説明され、以後の分析がほとんど無意味になるわけで、現在の田中宇の記事は読んでもまったく面白くないのである。
問題の根本を外すと問題分析は無意味になる。欧米政治の基本は「分割して統治せよ」であり、資本家の政治支配の基本は「表面的に対立する二大政党の両方に資金を出し、政治がフェアに行われているという演出をする」ことだ。とすれば「隠れ多極主義」と「一国覇権主義」は同一だと見るのがむしろ正解の可能性は高いだろう。つまり、支配層の対立など無い、ということだ。「多極主義」はあるだろうが、それは支配層の戦略の一部であり、別に「一国覇権主義」との対立など無いと私は見る。
田中宇のもう一つの欠点は、実際に政治家の意思が政治を動かしているかのように論じていることで、言うまでもなくブッシュもオバマも米国経済界の傀儡として戦争や国民抑圧政治をしているにすぎない。つまり経済によって政治が支配されているのであり、政治が自立的に動いているわけではない。そういう米国政治の実態を無視した政治評論は読むに値しないのである。
まあ、政治の表面的現象の要約としては彼の記事にも意味はある、ということでの転載である。つまり、彼の記事の中の「事実」のみ参考にし、彼の「意見」は無視すればよい。(その「事実」ももちろん加工されてはいるが)もともと彼は国際ニュース配信社の記者であり、「世界情報制御システム」の一員であった以上、現在でもそのコントロールの内部にいると見るべきだろう。
(以下引用)
▼911以来の軍事独裁の強化
米政府は01年の911以来、有事体制を活用し、テロ対策の名目で、米国民の人権を抑圧する政策を強化している。911直後に立法された「愛国者法」(Patriot Act)は、外国人のテロ容疑者に対する裁判なしの無期限勾留を認めるともに、米国民の電話やメール、預金残高などの個人情報を裁判所の令状なしに、米当局がテロ捜査の名目で傍受や取得できるようにした。
その後、07年度の国防権限法で、南北戦争後に米軍の米国内での軍事行動を禁止した法律(Posse Comitatus Act)などを改訂し、米軍が米国内で軍事行動できるようにした。同時に、テロ容疑者に対する人身保護法の適用を廃止した。911以来の一連の改訂は、米政府内で国防総省(米軍)の権限を拡大し、CIAやFBIなど、その他の諜報・捜査部門を弱体化しており、隠然とした「軍部台頭」「軍事独裁化」である。(Obama's Most Fateful Decision)
愛国者法や07年度の国防権限法は、前ブッシュ政権の時代だ。「ブッシュは911事件で人権意識が麻痺してしまい、人権無視の国内政策を進めたが、オバマはまともなので人権侵害などしない」というのが、日米でよく言われてきた「解説」だ。だが、今回の展開を見ると、911を口実にしたブッシュの人権侵害の国内政策を、オバマもしっかり継承している。今回の国防権限法は、テロ容疑者に対する捜査尋問の執行を国防総省に一本化する内容であり、国防総省がFBIやCIAの権限を奪うかたちになっている。この点も、オバマはブッシュ政権を踏襲している。FBIはCIAは、今回の法案に反対を表明している。(Obama should veto the Defense authorization bill)
もしアルカイダやタリバンが、米国にとって本当に大きな脅威であり続けているのなら、国民の人権を侵害しても取り締まるのが、妥当な選択肢の一つになる。だが、アルカイダもタリバンも、米国にとって大した脅威でない。アルカイダは、もともと存在しているかどうか怪しい組織で、米国がテロ戦争を「第2冷戦」的な長期の覇権体制にするための「敵」として誇張されてきた。タリバンは、アフガニスタンをイスラム主義の国に統合することを目指すナショナリストの武装勢力だ。米国がアフガンを侵略しなければ、タリバンは米国を敵視せず、むしろ米国との国交正常化を希望する(911前がそうだった)。(アルカイダは諜報機関の作りもの)
911後のテロ戦争は、米国にとって、ユーラシアに軍事関与して世界に対する影響力(覇権)を維持する長期戦略の復活を意味していた。この長期戦略は、冷戦終結でいったん終わったが、911を機に、ソ連の代わりにイスラム過激派を敵とし、世界各国の諜報体制に米国が介入できるテロ戦争の体制に衣替えして復活した。しかしその後、イラクとアフガンの占領失敗、中東全域の反米イスラム主義の席巻によって、テロ戦争による世界支配の戦略は崩壊した。オバマがイスラム主義に対する敵視をやめ、イラクもアフガンも撤退するのは、覇権戦略としてのテロ戦争が失敗して終わりに向かっていることを示している。
アルカイダやタリバンが実際の脅威でなくとも、彼らを敵視することで米国の世界支配が強化できるなら、まだ理解できる。今回の国防権限法のようなテロ戦争関係の法律が出てくるのは、有事体制のねつ造であるものの、国家戦略として古今東西よくあることだ。
しかし、オバマは外交面で、テロ戦争の構図を使って世界支配を強化するのを、すでにやめている。ブッシュ政権はアフガンへの恒久駐留を目指したが、オバマ政権は14年にアフガンから軍事撤退する政策だ。ブッシュはイスラムを敵視したが、オバマはイスラムとの融和を繰り返し宣言している。
▼米国はもっと悪くなった後に復活する
米国は外交面で、テロ戦争の構図を世界戦略として使うのをやめている。それなのに国内政策の面では、テロ戦争の有事ねつ造型の構図をむしろ強化していることが、今回の国防権限法に盛り込まれた無期限勾留の政策から読みとれる。アルカイダは脅威でなく、脅威をねつ造する世界戦略も失敗してやめているのに、米政界は、まだアルカイダの脅威をねつ造して米国民を無期限勾留できる新法を強化している。なぜ、こんなことをするのか。
一つの可能性としてあるのは、米当局内の権限争いだ。国防総省がCIAやFBIから権限を奪うことが、911以来続いており、有力議員らがこの動きを支持している。米当局内では、メキシコの麻薬組織を扇動・強化し、メキシコをパキスタン的な「失敗国家」におとしめ、米墨国境を越えて米国に不安定な事態を拡大させ、米軍が米国内で軍事行動する事態を作ることで、国防総省の権限をさらに拡大しようとする動きすらある。(Drug-Related Mexican Violence Soars, As US Policy Bolsters Cartels)(U.S. intervention in Mexico will make things worse)(US government openly admits arming Mexican drug gangs with 30,000 firearms - but why?)
(12月15日追記:オバマはNDAAに対する拒否権発動の脅しを引っ込めた。米議会が法案の条文の中に、FBIなど国防総省以外の文民当局によるテロ捜査を、この法律が妨害するものでないと明言する条項を入れたためだった。やはり米議会は、FBIやCIAの権限をないがしろにしても国防総省の権限を拡大しようとする傾向を持ち、ホワイトハウスはそれを嫌って拒否権をちらつかせたのだと考えられる)(White House drops veto threat on defense bill)
この場合、軍産複合体は、米国の安定より国防総省の権限強化を優先していることになる。もしくは、米国の中東戦略が軍産複合体(タカ派、ネオコン)の過剰策によってイスラム主義の席巻を招いて失敗したように、国内政策でも過剰策を展開した末に自滅的な失敗に至り、米国以外の諸大国(中露など)の台頭を招く「隠れ多極主義」が発動されているのかもしれない。
もう一つ考えられることは、米当局が米国内の人権や言論を抑圧しなかったら、米国内の反政府運動がもっと強くなり、60-70年代のベトナム反戦運動の席巻のような事態になっていた可能性だ。今の米国は、実体経済の悪化が続き、実質的な失業者が増加し、ローン破綻で家を失う人も増えている。だが米国では、庶民の不満が爆発して暴動が起きるといった事態に、ほとんどなっていない。英仏では移民の暴動が起きているが、それに比べて米国は安定している。この背景に、911以来の米国内でのマスコミ統制や、テロ対策を口実とした治安維持強化などの、ねつ造型有事体制があるのかもしれない。
今に比べると、911以前の米国は、とてもうまくいっていた。財政赤字はなく、ドルの覇権は揺るぎなく、覇権国として世界的に尊敬を集めていた。貧富格差も今より少なく、市民は旺盛に消費していた。あれから10年余がすぎた今、米国は経済的にも外交的にも明らかに凋落している。イラク戦争や金融政策における、度重なる重過失的な失策の結果である。
これを単純な過失の連続とみるか、未必の故意的な重過失とみるか、意見が分かれるだろう(私自身は、米国上層部の人々の有能さから考えて、未必の故意だろうと思っている)。だが、言論が抑制され、失策が隠蔽され続ける米国の国家体制が今後も続くことが、今回の国防権限法から読みとれる以上、米国が経済、社会、外交面で強さを回復していく見通しは、今のところ見えない。米国の衰退は、今後も続くだろう。
私は、ものごとを本質的に考えようとする米国の国民性が好き(官僚独裁によって表層的にしか考えないよう訓練されてしまった戦後日本の国民性が嫌い)なので、米国がひどい国になっていくのは残念だ。しかし同時に、このひどい状態を経て、世界の体制が多極化していき、米国は、背負わされていた単独覇権を放棄した後、ラディカルで人間味にあふれる本来の姿に戻り、尊敬される西半球の国として復活すると、私は予測している。
田中宇は、デビュー当時は冴えた論客だったが、「隠れ多極主義」と「一国覇権主義」の対立が米国内部にあるという持論に固執し始めてからは世界情勢分析が生ぬるくなり、ブログを有料化してからは、私はほとんど見ることも無い。金を払ってまで読む内容ではないからだ。彼に限らず、だいたいのブロガーは金を取り出すと駄目になる傾向があるのだが。ついでだが、私のブログに何かのCMが貼られていても、それはブログの場を提供している誰かが勝手に載せているだけである。店子の私としてはそれに対して大家に文句が言える立場ではない。
米国支配層内部に対立があるという論法で行けば、米国政治のあらゆる矛盾が簡単に説明され、以後の分析がほとんど無意味になるわけで、現在の田中宇の記事は読んでもまったく面白くないのである。
問題の根本を外すと問題分析は無意味になる。欧米政治の基本は「分割して統治せよ」であり、資本家の政治支配の基本は「表面的に対立する二大政党の両方に資金を出し、政治がフェアに行われているという演出をする」ことだ。とすれば「隠れ多極主義」と「一国覇権主義」は同一だと見るのがむしろ正解の可能性は高いだろう。つまり、支配層の対立など無い、ということだ。「多極主義」はあるだろうが、それは支配層の戦略の一部であり、別に「一国覇権主義」との対立など無いと私は見る。
田中宇のもう一つの欠点は、実際に政治家の意思が政治を動かしているかのように論じていることで、言うまでもなくブッシュもオバマも米国経済界の傀儡として戦争や国民抑圧政治をしているにすぎない。つまり経済によって政治が支配されているのであり、政治が自立的に動いているわけではない。そういう米国政治の実態を無視した政治評論は読むに値しないのである。
まあ、政治の表面的現象の要約としては彼の記事にも意味はある、ということでの転載である。つまり、彼の記事の中の「事実」のみ参考にし、彼の「意見」は無視すればよい。(その「事実」ももちろん加工されてはいるが)もともと彼は国際ニュース配信社の記者であり、「世界情報制御システム」の一員であった以上、現在でもそのコントロールの内部にいると見るべきだろう。
(以下引用)
▼911以来の軍事独裁の強化
米政府は01年の911以来、有事体制を活用し、テロ対策の名目で、米国民の人権を抑圧する政策を強化している。911直後に立法された「愛国者法」(Patriot Act)は、外国人のテロ容疑者に対する裁判なしの無期限勾留を認めるともに、米国民の電話やメール、預金残高などの個人情報を裁判所の令状なしに、米当局がテロ捜査の名目で傍受や取得できるようにした。
その後、07年度の国防権限法で、南北戦争後に米軍の米国内での軍事行動を禁止した法律(Posse Comitatus Act)などを改訂し、米軍が米国内で軍事行動できるようにした。同時に、テロ容疑者に対する人身保護法の適用を廃止した。911以来の一連の改訂は、米政府内で国防総省(米軍)の権限を拡大し、CIAやFBIなど、その他の諜報・捜査部門を弱体化しており、隠然とした「軍部台頭」「軍事独裁化」である。(Obama's Most Fateful Decision)
愛国者法や07年度の国防権限法は、前ブッシュ政権の時代だ。「ブッシュは911事件で人権意識が麻痺してしまい、人権無視の国内政策を進めたが、オバマはまともなので人権侵害などしない」というのが、日米でよく言われてきた「解説」だ。だが、今回の展開を見ると、911を口実にしたブッシュの人権侵害の国内政策を、オバマもしっかり継承している。今回の国防権限法は、テロ容疑者に対する捜査尋問の執行を国防総省に一本化する内容であり、国防総省がFBIやCIAの権限を奪うかたちになっている。この点も、オバマはブッシュ政権を踏襲している。FBIはCIAは、今回の法案に反対を表明している。(Obama should veto the Defense authorization bill)
もしアルカイダやタリバンが、米国にとって本当に大きな脅威であり続けているのなら、国民の人権を侵害しても取り締まるのが、妥当な選択肢の一つになる。だが、アルカイダもタリバンも、米国にとって大した脅威でない。アルカイダは、もともと存在しているかどうか怪しい組織で、米国がテロ戦争を「第2冷戦」的な長期の覇権体制にするための「敵」として誇張されてきた。タリバンは、アフガニスタンをイスラム主義の国に統合することを目指すナショナリストの武装勢力だ。米国がアフガンを侵略しなければ、タリバンは米国を敵視せず、むしろ米国との国交正常化を希望する(911前がそうだった)。(アルカイダは諜報機関の作りもの)
911後のテロ戦争は、米国にとって、ユーラシアに軍事関与して世界に対する影響力(覇権)を維持する長期戦略の復活を意味していた。この長期戦略は、冷戦終結でいったん終わったが、911を機に、ソ連の代わりにイスラム過激派を敵とし、世界各国の諜報体制に米国が介入できるテロ戦争の体制に衣替えして復活した。しかしその後、イラクとアフガンの占領失敗、中東全域の反米イスラム主義の席巻によって、テロ戦争による世界支配の戦略は崩壊した。オバマがイスラム主義に対する敵視をやめ、イラクもアフガンも撤退するのは、覇権戦略としてのテロ戦争が失敗して終わりに向かっていることを示している。
アルカイダやタリバンが実際の脅威でなくとも、彼らを敵視することで米国の世界支配が強化できるなら、まだ理解できる。今回の国防権限法のようなテロ戦争関係の法律が出てくるのは、有事体制のねつ造であるものの、国家戦略として古今東西よくあることだ。
しかし、オバマは外交面で、テロ戦争の構図を使って世界支配を強化するのを、すでにやめている。ブッシュ政権はアフガンへの恒久駐留を目指したが、オバマ政権は14年にアフガンから軍事撤退する政策だ。ブッシュはイスラムを敵視したが、オバマはイスラムとの融和を繰り返し宣言している。
▼米国はもっと悪くなった後に復活する
米国は外交面で、テロ戦争の構図を世界戦略として使うのをやめている。それなのに国内政策の面では、テロ戦争の有事ねつ造型の構図をむしろ強化していることが、今回の国防権限法に盛り込まれた無期限勾留の政策から読みとれる。アルカイダは脅威でなく、脅威をねつ造する世界戦略も失敗してやめているのに、米政界は、まだアルカイダの脅威をねつ造して米国民を無期限勾留できる新法を強化している。なぜ、こんなことをするのか。
一つの可能性としてあるのは、米当局内の権限争いだ。国防総省がCIAやFBIから権限を奪うことが、911以来続いており、有力議員らがこの動きを支持している。米当局内では、メキシコの麻薬組織を扇動・強化し、メキシコをパキスタン的な「失敗国家」におとしめ、米墨国境を越えて米国に不安定な事態を拡大させ、米軍が米国内で軍事行動する事態を作ることで、国防総省の権限をさらに拡大しようとする動きすらある。(Drug-Related Mexican Violence Soars, As US Policy Bolsters Cartels)(U.S. intervention in Mexico will make things worse)(US government openly admits arming Mexican drug gangs with 30,000 firearms - but why?)
(12月15日追記:オバマはNDAAに対する拒否権発動の脅しを引っ込めた。米議会が法案の条文の中に、FBIなど国防総省以外の文民当局によるテロ捜査を、この法律が妨害するものでないと明言する条項を入れたためだった。やはり米議会は、FBIやCIAの権限をないがしろにしても国防総省の権限を拡大しようとする傾向を持ち、ホワイトハウスはそれを嫌って拒否権をちらつかせたのだと考えられる)(White House drops veto threat on defense bill)
この場合、軍産複合体は、米国の安定より国防総省の権限強化を優先していることになる。もしくは、米国の中東戦略が軍産複合体(タカ派、ネオコン)の過剰策によってイスラム主義の席巻を招いて失敗したように、国内政策でも過剰策を展開した末に自滅的な失敗に至り、米国以外の諸大国(中露など)の台頭を招く「隠れ多極主義」が発動されているのかもしれない。
もう一つ考えられることは、米当局が米国内の人権や言論を抑圧しなかったら、米国内の反政府運動がもっと強くなり、60-70年代のベトナム反戦運動の席巻のような事態になっていた可能性だ。今の米国は、実体経済の悪化が続き、実質的な失業者が増加し、ローン破綻で家を失う人も増えている。だが米国では、庶民の不満が爆発して暴動が起きるといった事態に、ほとんどなっていない。英仏では移民の暴動が起きているが、それに比べて米国は安定している。この背景に、911以来の米国内でのマスコミ統制や、テロ対策を口実とした治安維持強化などの、ねつ造型有事体制があるのかもしれない。
今に比べると、911以前の米国は、とてもうまくいっていた。財政赤字はなく、ドルの覇権は揺るぎなく、覇権国として世界的に尊敬を集めていた。貧富格差も今より少なく、市民は旺盛に消費していた。あれから10年余がすぎた今、米国は経済的にも外交的にも明らかに凋落している。イラク戦争や金融政策における、度重なる重過失的な失策の結果である。
これを単純な過失の連続とみるか、未必の故意的な重過失とみるか、意見が分かれるだろう(私自身は、米国上層部の人々の有能さから考えて、未必の故意だろうと思っている)。だが、言論が抑制され、失策が隠蔽され続ける米国の国家体制が今後も続くことが、今回の国防権限法から読みとれる以上、米国が経済、社会、外交面で強さを回復していく見通しは、今のところ見えない。米国の衰退は、今後も続くだろう。
私は、ものごとを本質的に考えようとする米国の国民性が好き(官僚独裁によって表層的にしか考えないよう訓練されてしまった戦後日本の国民性が嫌い)なので、米国がひどい国になっていくのは残念だ。しかし同時に、このひどい状態を経て、世界の体制が多極化していき、米国は、背負わされていた単独覇権を放棄した後、ラディカルで人間味にあふれる本来の姿に戻り、尊敬される西半球の国として復活すると、私は予測している。
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