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徽宗皇帝のブログ

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自ら奴隷になる馬鹿
「ブロッギンエッセイ」というブログから転載。このブログの存在は孔徳秋水氏のツィッターで知った。

EUが発足した時、欧州の中で経済水準の低い国は、「これで自分たちも豊かになる」と思ったのではないだろうか。そりゃあ、「統一」されるのだから、全体が同一水準になる、と思うのが自然な考えだ。ところが、あにはからんや、EU統合により、豊かな国はますます豊かになり、貧しい国はますます貧しくなった。どういうマジックなんだ、と今でも理解に苦しんでいる人々は多いだろう。いずれにしても、EU統合のメリットは、欧州の貧しい国々には何も無く、デメリットだけがあったわけだ。

「よく考えてみれば,そもそも英国はユーロ圏に入っていない。英国が完全雇用に近い状態にあるのは,為替と財政の自由を手にしているからである。」

つまり、EUの小国たちは自ら自由を手放した時点で、奴隷になっているわけだ。それで、なぜ自分たちは奴隷になっているのだ、と不思議がっているwww

「その意味で英国にケインズ主義の伝統は生きており,英国人は賢明であった。英国人はしたたかである。日本人もこの英国のEU離脱から学ぶことは多い。その一つがTPP離脱,TPP法案撤回であることは言うまでもない。」


まあ、そういうことである。


(以下引用)



伊東光晴「問題は英国ではなくEUだ」(『世界』1月号)

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 米国ではスティグリッツ,日本では伊東光晴さんを私は経済学者として最も信頼している。それは,やはり彼らの経済学理解がしっかりと歴史と現実に学んだものであるからである。

 私のイギリスの経済学理解は,国内市場優先主義の経済学と,海外市場優先の経済学の対抗を一つの軸としていると考えてきた。そして海外市場優先主義は,低賃金論に結びつき,国内市場優先論は,これに反対している。(本誌p.147)

 私もスミス→リカードウ→ケインズという流れをメインにして,イギリスの経済学を学んだ。よく誤解されるのだが,比較生産費説によって自由貿易を体系づけたといわれるリカードウも,実は国内市場優先主義である。スミスもリカードウも,国内市場を形成した上で初めて外国との貿易ができると主張した。そして国内市場や国内の労働者を犠牲にして,海外市場に依存する経済を真っ向から批判したのである。国内市場と海外市場とのバランス――これが古典的自由主義の考えた本来の自由貿易のあり方である。これはケインズも同じである。

 ケインズは,ヨーロッパの大国が海外市場優先主義の経済政策をとる結果,国際緊張を引き起こすことを,歴史から学んだ。そこで不況に際しては,海外に市場を求めるのではなくて,国内需要を喚起する政策を提起したのである。すなわち,国内経済の安定,雇用と物価の安定,これである。決して為替の安定ではなかったことは注意すべきである。

 EUの経済というのは,ケインズとは対照的なハイエクが構想していたものに近い。すなわちハイエクは,安定的な国際秩序をつくり出すには,ヨーロッパが単一市場をつくり,各国政府の権限を縮小し,各国の中央銀行を連邦準備銀行に一体化することが避けられないと考えた。

 ハイエクの構想は,わかりやすく言えば,ヨーロッパ経済をアメリカ合衆国のように再編しようということである。ただし,それはあくまで経済的な統合であって,政治的統合までも主張しているわけではないという点に注意すべきである。合衆国の通貨ドルは,EUのユーロである。ユーロ圏内の各国は,為替の変動のない通貨で結びついている。その意味でユーロ圏は為替の安定を至上命題とする経済といってよい。

 だが,このような統一通貨が,域内の国々の間で経済格差の拡大をもたらすことは誰の目にも明らかである。経済力の強いドイツには有利に働き,競争力の弱いスペインやギリシアには不利に働く。財政政策が自由に取れないから,格差はますます開く。だから不況・高失業率の国から英国等へ行く移民や出稼ぎが生まれるのである。

 実際ユーロ圏の国々では,ヨーロッパ中央銀行が君臨していて,各国政府の財政上の権限は著しく制限されている。だから,できることといえば財政削減,緊縮財政しかない。その結果は不況と失業の増加であり,ますます悪循環に陥っていく。

 掲題の論説で伊東さんは,企業に最大限の自由を与える市場経済と政府の福祉政策を結合したドイツの経済を「社会的市場経済」と呼び,新自由主義の亜種と見ている。伊東さんによれば,その「社会的市場経済」は,企業が海外に市場を求めていく経済である。ユーロによる為替(マルク)安は,これに対応したものである。このような輸出に国内経済を依存した経済は,先に述べたように海外で問題を起こす。ユーロ圏の格差や移民などである。

 こういう流れはいずれ,これに反対する動きを生み出す。英国だけなく,ドイツやフランスでも,移民排斥を訴える排外主義的な右翼政党,右翼政治家が台頭している。トランプもその流れの中にある。ナショナリズムからの脱却を目指したEC→EUという取り組みが,逆にナショナリズムを煽る力を生み出してしまったのである。それはテロや内戦・戦争の火種にもなりかねないものである。

 こういうハイエク的なユーロ世界に代わって,ケインズが戦後体制として構想したもの(管理通貨制度)を,ユーロ圏でつくろうというのが筆者の主張であるわけだが,私も賛成である。すなわち,統一通貨ユーロを廃止し,各国が国際収支の悪化には自国通貨を切り下げるなど,自由に為替調整をできるようにすること。

 あるいは,もし統一通貨を守るのであれば,ユーロ圏各国の財政を統一し,各国の財政格差をならすための交付金制度などを創設することである。つまり,文字通りの政治統合を進め,地域間格差を縮小するための再分配政策の導入を図ること,これである。これもEU版ケインズ主義と言っていいだろう。

 なんでこういう真っ当でバランスの取れた考えが,日本ではあまりお目にかかれないのか不思議である。これは前にも書いたけれども,経済学の主流である新古典派経済学やポストモダンの影響が大きいのではないかと思う。特にケインズやマルクスなどの体制批判的思考を社会からも教育からも抹消しようとしてきた学界や出版界,言論界の責任は重い。

 さて,この伊東さんの論考が教えてくれる一番重要なポイントは,〈世界経済における一国経済〉という視点である。注意すべき点は,安易なナショナリズムに煽られないためにも,あくまで経済という枠組の中でrigidに国内問題を考えることである。それを理解するのにケインズは至緊至要である。よく考えてみれば,そもそも英国はユーロ圏に入っていない。英国が完全雇用に近い状態にあるのは,為替と財政の自由を手にしているからである。その意味で英国にケインズ主義の伝統は生きており,英国人は賢明であった。英国人はしたたかである。日本人もこの英国のEU離脱から学ぶことは多い。その一つがTPP離脱,TPP法案撤回であることは言うまでもない。

 英国の新首相メイは,その就任演説でイングランド,ウェールズ,スコットランド,北アイルランドの結束の重要さを強調し,ついで労働者階級に呼びかけている。
 ”あなたがたの生活が安定しているとはいえない””一生懸命働いても,生活がときに苦しくなることを私は知っています”と,イギリスの政治家は,その目を国内に向けている。・・・
 EUの経済は大きな格差を生み,危険な道に入りだし,それが各国に極右政党の躍進を生んでいる。政治の目を内政に向けなければならない時,各国の首脳はそれに気づいていない。

 (本誌p.149)

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