「現代ビジネス」から転載。
過疎地に住む住民にとって、身近に食料品店やガソリンスタンドが無くなることは死活問題である。これからは、「民営化」に逆行して、そのような生活物資供給施設を「準ライフライン」として政治が担保していく必要が出てくるだろう。つまり、資本の論理では、利潤を上げられない赤字店舗は廃棄・移転するのが当然である以上、過疎地での営業は「自由主義経済」のデッドスポットとなるしかないのである。社会主義を嫌う人間でも、まさかこうした過疎地に住む人間を死ぬに任せろとは言わないだろう。
だが、すべて不便さとか不満な部分というものは「新たな事業機会」でもある。民間のビジネスとしても、ここにはある可能性があるのではないだろうか。
移動ショッピングセンターや宅配サービスなどを拡大し、それこそ年寄りが自宅から電話を一本かけるだけで、あらゆる必需品が家に届くようにするサービスが広いエリアにおいて安価で提供できれば、この過疎問題も解決できるかもしれない。問題は、コストと利潤の関係だが、そうしたコスト計算をしっかりやれば、案外とこれは都市部においても適応できる21世紀型ビジネスになる可能性もあるのではないか。
コンビニエンスストアがあれほど広まったのは、まさしくそれが「コンビニエント(便利)」な店だったからだ。ほんの100メートルも歩けば、日常生活の必要品のほとんどが手に入る店がある、というのはまさしくコンビニエントであった。ならば、「歩かなくても、品物の方からこちらに来てくれる」という「商品宅配」が、たとえば「商品価格プラス10%のサービス料」で可能ならば、利用する人は多いのではないだろうか。そして、10%というのは、通常商品の平均的利益率とそれほど変わらないのである。(サービス料金は段階を作ってもよい。1000円未満なら20%、それ以上なら10%とか。そうすれば、100円の商品を宅配させる図々しい客をある程度防止できる。まあ、宅配基準を1000円以上としてもいいのだが。)
公的サービスでやるにしても、民間でやるにしても、こうした「生活物資の安定供給」のサービスが、これからはより今の現実に合った形で展開されることが求められる。
(以下引用)
国内の生活インフラに関して既に顕在化している問題をもうひとつ紹介したい。近隣にガソリンスタンド(以下、SS)が無くなってしまう「SS過疎地」問題 である *4 。自動車社会である地域においてSSは自動車の給油のライフラインであると同時に、農機や給湯・風呂炊き、冬のストーブに利用する灯油確保のためのインフラでもある。
全国石油協会によると、「SS過疎地」の定義である、「市町村内のSS数が三箇所以下で、今後さらに減少すると地域住民への石油製品供給が極めて問題となる地域」は全国に200箇所以上ある。既に、最寄りの給油地が自宅から20km以上離れている地域も存在する。
SS経営は国内では2004年にガソリン需要が減少に転じてから全国的に苦しい状況である。特に、過疎地では人口減少等により燃料油需要は減少したものの、価格は大量販売をしている都市部の低い水準が適用されてしまうため、売上は伸びず、結果として、多くの事業者が赤字経営化に陥っている。都市部のSSは、給油以外のサービスで収益を上げることも模索しているが、域内人口の少ない地域のSSではそれも難しい。
そのため、国・全国石油協会では、過疎地域のSSは地域内への石油製品の安定供給確保を目標とし、消費者・SS事業者・業務連携先となる自治体や他業者が一体となって、地域ごとの戦略(="地域マスタープラン")を立てるべきと指針を出している。
即ち、事業者であるSSは、石油製品の流通における効率化などビジネス的な側面での努力のみならず、地域のまちづくりや活性化活動への積極的な参加や、他業者との連携による新しい経営形態の模索についても努力することが求められている。本来は事業主である民間企業が、公的な役割を担っているのである。
2020年には地方の「生活インフラ」はさらに弱体化
2020年には、過疎化、高齢化がますます進行する。既に表面化している「買い物弱者」や「SS過疎地」といった問題以外にも、生活インフラに関連した様々な問題が露呈する可能性が高い。
特に、電気・ガス・水道・通信・放送・郵便等の分野では、人口が少なく経済基盤が小さい過疎地域における事業展開は、設備投資に対する十分なリターンが得られないため、大きな利益圧迫要素になりかねない。
通信のような一部のサービスではユニバーサルサービスファンドを設けて、ユニバーサルサービスを維持しようとしているが、このファンドの原資はユーザー料金から捻出されており、ユニバーサルサービスの範囲を拡大していくには広くあまねく国民の理解を得る必要がある。ユニバーサルサービスを強化するよりも、むしろ、住民の都市部への移住を促していく政策をとるべきである、という声が強まるだろうし、また政策メニューも具体化していくべきだろう。
では民間企業にとっては「食の砂漠」問題や「買い物弱者」問題は事業機会となるのだろうか。右肩上がりの経済成長が止まり、国内市場のホワイトスペースが消失した現在、企業はグローバル化を推進すべく、海外で様々な投資を行い、未知なるフィールドで事業拡大を模索している。しかし、成長が停滞した国内市場においても、新たな事業展開を行っていく可能性はある。
*4 「平成21年度SS過疎地調査事業(総合調査事業)報告書」(全国石油協会)
過疎地に住む住民にとって、身近に食料品店やガソリンスタンドが無くなることは死活問題である。これからは、「民営化」に逆行して、そのような生活物資供給施設を「準ライフライン」として政治が担保していく必要が出てくるだろう。つまり、資本の論理では、利潤を上げられない赤字店舗は廃棄・移転するのが当然である以上、過疎地での営業は「自由主義経済」のデッドスポットとなるしかないのである。社会主義を嫌う人間でも、まさかこうした過疎地に住む人間を死ぬに任せろとは言わないだろう。
だが、すべて不便さとか不満な部分というものは「新たな事業機会」でもある。民間のビジネスとしても、ここにはある可能性があるのではないだろうか。
移動ショッピングセンターや宅配サービスなどを拡大し、それこそ年寄りが自宅から電話を一本かけるだけで、あらゆる必需品が家に届くようにするサービスが広いエリアにおいて安価で提供できれば、この過疎問題も解決できるかもしれない。問題は、コストと利潤の関係だが、そうしたコスト計算をしっかりやれば、案外とこれは都市部においても適応できる21世紀型ビジネスになる可能性もあるのではないか。
コンビニエンスストアがあれほど広まったのは、まさしくそれが「コンビニエント(便利)」な店だったからだ。ほんの100メートルも歩けば、日常生活の必要品のほとんどが手に入る店がある、というのはまさしくコンビニエントであった。ならば、「歩かなくても、品物の方からこちらに来てくれる」という「商品宅配」が、たとえば「商品価格プラス10%のサービス料」で可能ならば、利用する人は多いのではないだろうか。そして、10%というのは、通常商品の平均的利益率とそれほど変わらないのである。(サービス料金は段階を作ってもよい。1000円未満なら20%、それ以上なら10%とか。そうすれば、100円の商品を宅配させる図々しい客をある程度防止できる。まあ、宅配基準を1000円以上としてもいいのだが。)
公的サービスでやるにしても、民間でやるにしても、こうした「生活物資の安定供給」のサービスが、これからはより今の現実に合った形で展開されることが求められる。
(以下引用)
国内の生活インフラに関して既に顕在化している問題をもうひとつ紹介したい。近隣にガソリンスタンド(以下、SS)が無くなってしまう「SS過疎地」問題 である *4 。自動車社会である地域においてSSは自動車の給油のライフラインであると同時に、農機や給湯・風呂炊き、冬のストーブに利用する灯油確保のためのインフラでもある。
全国石油協会によると、「SS過疎地」の定義である、「市町村内のSS数が三箇所以下で、今後さらに減少すると地域住民への石油製品供給が極めて問題となる地域」は全国に200箇所以上ある。既に、最寄りの給油地が自宅から20km以上離れている地域も存在する。
SS経営は国内では2004年にガソリン需要が減少に転じてから全国的に苦しい状況である。特に、過疎地では人口減少等により燃料油需要は減少したものの、価格は大量販売をしている都市部の低い水準が適用されてしまうため、売上は伸びず、結果として、多くの事業者が赤字経営化に陥っている。都市部のSSは、給油以外のサービスで収益を上げることも模索しているが、域内人口の少ない地域のSSではそれも難しい。
そのため、国・全国石油協会では、過疎地域のSSは地域内への石油製品の安定供給確保を目標とし、消費者・SS事業者・業務連携先となる自治体や他業者が一体となって、地域ごとの戦略(="地域マスタープラン")を立てるべきと指針を出している。
即ち、事業者であるSSは、石油製品の流通における効率化などビジネス的な側面での努力のみならず、地域のまちづくりや活性化活動への積極的な参加や、他業者との連携による新しい経営形態の模索についても努力することが求められている。本来は事業主である民間企業が、公的な役割を担っているのである。
2020年には地方の「生活インフラ」はさらに弱体化
2020年には、過疎化、高齢化がますます進行する。既に表面化している「買い物弱者」や「SS過疎地」といった問題以外にも、生活インフラに関連した様々な問題が露呈する可能性が高い。
特に、電気・ガス・水道・通信・放送・郵便等の分野では、人口が少なく経済基盤が小さい過疎地域における事業展開は、設備投資に対する十分なリターンが得られないため、大きな利益圧迫要素になりかねない。
通信のような一部のサービスではユニバーサルサービスファンドを設けて、ユニバーサルサービスを維持しようとしているが、このファンドの原資はユーザー料金から捻出されており、ユニバーサルサービスの範囲を拡大していくには広くあまねく国民の理解を得る必要がある。ユニバーサルサービスを強化するよりも、むしろ、住民の都市部への移住を促していく政策をとるべきである、という声が強まるだろうし、また政策メニューも具体化していくべきだろう。
では民間企業にとっては「食の砂漠」問題や「買い物弱者」問題は事業機会となるのだろうか。右肩上がりの経済成長が止まり、国内市場のホワイトスペースが消失した現在、企業はグローバル化を推進すべく、海外で様々な投資を行い、未知なるフィールドで事業拡大を模索している。しかし、成長が停滞した国内市場においても、新たな事業展開を行っていく可能性はある。
*4 「平成21年度SS過疎地調査事業(総合調査事業)報告書」(全国石油協会)
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