「出し子」は100人以上だった(写真は振り込め詐欺対策で警戒する警察官)
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 そこに銃口はなかった。最先端のテクノロジーと犯罪手口の融合が、新たな21世紀型の犯罪を生み出した。非武装の“銀行強盗”。5月15日、全国で一瞬のうちに14億4000万円が消えた。


「全国17都府県にあるコンビニなどのATMから、現金が一斉に不正に引き出されたのです。南アフリカの銀行の偽造カード1600枚以上が使われたとみられます。キャッシング枠で何度も現金を引き出す手口で、『出し子』100人以上が午前5時からの2時間半で一斉に引き出しました。途中でシステムが検知しましたが、時既に遅し、でした」(全国紙社会部記者)


 カードの一部には、中国語表記のカードが含まれていた。国際犯罪組織による犯行か?ともみられるが、捜査関係者は「100人以上の外国人を一斉に入国させ、ATMの場所を教えて引き出させるのはかなり難しい」と話す。国際犯罪組織と国内犯罪組織がタッグを組み、出し子が国内で調達された可能性も指摘する。国内には特殊詐欺で“鍛えられた”出し子が多いからだ。


 同様の犯罪は初めてではない。2012年12月~13年2月にも複数のATMから短時間で現金が引き出された事件が起きている。このときは日本だけでなく、米国など世界27カ国で45億円相当が引き出された。前出の全国紙社会部記者が解説する。


「国内の犯行にはルーマニア系の犯罪集団が関与していたことが判明しています。ただ、海外では様々な人種が逮捕されており、ハッカー集団が、全世界の犯罪集団に盗んだカード情報を有償でばらまいたのが真相でしょう。今回も同じ構図かもしれません」


 実は、このときも狙われたのはセブンイレブン系列のセブン銀行。海外観光客の増加を見込み、海外のカードに全面対応しているからとみられる。同行は5月28日から10万~20万円だった引き出し限度額を5万円に引き下げる対策を打ち出しているが、「それだけで国内外の犯罪集団が引き下がるとは思えない」(同前)。


 ボニー&クライド、ジョン・デリンジャー、サンダンス・キッド。かつて命がけで銃を構えた銀行強盗たちはその個性も相まって映画にもなった。だが、顔のみえない今回の犯罪集団は現代社会の不気味さを映し出している。