政府は29日に開いた脱炭素社会の実現に向けた会議で、二酸化炭素の排出量に応じて、企業などがコストを負担する「カーボンプライシング」の導入に向けた、新たな制度案を了承しました。
総理大臣官邸で開かれた「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」には、岸田総理大臣や西村経済産業大臣、それに経団連の十倉会長などが出席しました。
会議では、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現をめざし、政府が検討している「カーボンプライシング」の導入に向けた、新たな制度案が示されました。
この中では、企業に排出削減の取り組みを加速させるため、排出量を削減した分を、株式や債券のように市場で売買する「排出量取引」を、2026年度以降本格稼働させるとしました。
また、化石燃料の使用を減らすため、電力会社に対しては、将来的に有償で排出枠を割り当て、負担を求めるとしています。
さらに、電力会社に加え、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を輸入している石油元売り会社、商社などにも一定の費用を負担させます。
政府は、再生可能エネルギーや蓄電池など、脱炭素につながる投資を「GX経済移行債」という、新たな国債を発行して進めますが、企業が負担する資金を償還財源に充てるとしています。
一方、今回の制度案では、広く企業などに対して課税を行う炭素税の導入は見送られました。
29日の会議では、これらの案が了承され、政府は「GX経済移行債」の発行を通じて、脱炭素に向けた民間投資を後押しし、今後10年間で官民で150兆円を超える投資を実現させる方針です。
岸田首相「脱炭素エネルギーのフル活用が必要」
岸田総理大臣は「GX実行会議」で西村経済産業大臣に対し、次回の会議で二酸化炭素の排出量に応じて、企業などがコストを負担する「カーボンプライシング」や、「GX経済移行債」の発行の開始時期などを示すよう指示しました。
また、脱炭素化に向けて、再生可能エネルギーや省エネ、それに、原子力などを活用した具体的な提案を示すことや、次回の会議で取りまとめるGXの実行に向けた、今後10年のロードマップの中で、分野別の投資促進策を示すことも指示しました。
岸田総理大臣は「次回のGX会議は、ことしの議論の取りまとめになるので3点指示した。足元のエネルギー危機克服と、持続的なGX推進を両立していくうえで、再エネ、省エネ、原子力などの脱炭素エネルギーのフル活用が必要だ。150兆円の官民によるGX投資を引き出すことは、成長戦略の柱でもある。委員の引き続きの協力を心からお願いしたい」と述べました。
経団連 十倉会長「評価できる策」
脱炭素社会の実現に向けた政府の会議のあと、経団連の十倉会長は記者団に対し、「温室効果ガスの着実な削減を支援し、産業競争力強化に取り組める意欲とインセンティブ、期間が確保できている策で、評価したい」と述べました。
そのうえで十倉会長は、「GX経済移行債と、成長に資するカーボンプライシング、この2つを組み合わせることで日本のGXを着実に前進させていける」と述べ、新たな制度を通じ、産業のイノベーションを推進していくことが重要だという認識を改めて示しました。
GX経済移行債 ねらいと財源は
政府は2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向けて、今後10年間で150兆円を超える投資を官民で行う方針です。
分野別では、▽二酸化炭素を排出しない水素やアンモニア、▽次世代の蓄電池の製造や研究開発にそれぞれ7兆円以上、▽二酸化炭素を多く排出する鉄鋼や化学の業界ではそれぞれ3兆円以上の投資を見込んでいます。
ただ、企業にとっては、技術の実用化や需要の動向も見通しづらい中でリスクを踏まえた投資判断を行い多額の資金を調達していくことは容易ではありません。
こうしたことから政府では、新たな国債となる「GX=グリーントランスフォーメーション経済移行債」を設け、民間投資を後押ししていくことになりました。
具体化に向けて経済産業省では、来年度からGX経済移行債を発行し、今後10年間で20兆円程度の民間への資金供給を行う方向で調整しています。
2050年までの間に償還を行うとしていますが、その財源としては電力会社や石油元売り会社、それに商社など石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を輸入している事業者に「賦課金」と呼ばれる一定の負担を求めることにしています。
また、「排出量取引」の制度も活用して、政府が関わった省エネや再生可能エネルギーの事業で得た排出量の削減分を企業に売却する利益や、電力会社に対し、将来的に有償で排出枠を割り当てることで得る利益を財源に充てる方針です。
経済産業省は、来年の通常国会に必要な法案の提出を目指すことにしています。
カーボンプライシング制度案 負担と課題は
政府が検討を進めてきた「カーボンプライシング」とは、二酸化炭素の排出量に応じて、企業などに金銭的なコストを負担してもらう仕組みのことです。
代表的な1つが、排出できる二酸化炭素の上限を定めてその過不足分を売買させる「排出量取引」の制度です。
排出量取引は現在、東京証券取引所で実証実験が行われていて、全国160余りの企業や団体が参加し、再生可能エネルギーや植林などによって二酸化炭素の排出量を削減した分を株式や債券のように市場を通じて売買しています。
企業は来年度からみずから削減目標を決めたうえで、目標を上回って削減できた分を売却する形で進めることにしていますが、2026年度以降は脱炭素に向けた政府の目標や第三者機関の認証を踏まえ、排出枠を設定することも検討することにしています。
さらに、石炭や天然ガスなど化石燃料に依存する電力部門の脱炭素化を加速させるために、将来的に電力会社に対しては、有償で排出枠を割り当て、負担を求めるとしています。
また、29日の会議では、広く企業などに課税する炭素税の導入は見送られましたが、一部の業種の企業に対し「賦課金」と呼ばれる一定の負担を求めることが確認されました。
対象は化石燃料を輸入している電力会社や石油元売り会社などでこれらの企業は、電気やガソリン料金などに負担分を上乗せするとみられます。
ただ、政府はカーボンプライシングの導入に向けては、エネルギーに関連して国民や企業などの負担が中長期的に増えることのないようにするとしています。
政府は、脱炭素の取り組みとともに産業競争力の強化や経済成長につなげられるよう支援を強化するとしていますが、カーボンプライシングの導入によって生じる国民や企業の負担感をいかに払拭(ふっしょく)するかが引き続き課題となっています。
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