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徽宗皇帝のブログ

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「年功賃金」と「終身雇用」が日本人を幸福にしていた

「日経ビジネス(河合薫の新リーダー術)」から記事の一部を転載。

 

「年功賃金」と「終身雇用」は、新自由主義者からは目の敵にされてきて、今では多くの企業が「成果主義」「実力主義」を標榜している。つまり、「年功賃金」も「終身雇用」もしません、というのが今の日本のビジネス社会だ。

経営者の視点から言えば、「成果主義」「実力主義」は会社の利益につながると考えられているからこそ多くの企業で採用されているわけだが、はたしてそれは本当に妥当なのだろうか。

簡単な話、たとえば経理職の「成果」とは何なのか。

会社の金を使い込まない、という事くらいしか私には思いつかないが、それを「成果」として評価する会社など聞いたことはない。「あなたは長年に亘って経理の職にありながら会社の金を使い込まなかったことを評価し、表彰します」などと会社の総会でやったら、妙な空気が漂うことだろう。侮辱だとして、その場で辞職する人もいるだろう。つまり、「正直に勤める」だけで十分という職種もある、ということなのである。

事務職(人事課も含む)は営業や開発という部署とは異なり、「成果」が出しにくいものだが、そこで唯一成果になるのが「コストカット」、特に人事課では「人件費削減」である。人件費以外のコストカットも、現場の人間の作業を著しく不便にすることが多い。だが、そのように「同僚の足を引っ張ることが本人の『成果』となり、その『実力』が評価されて役員へと進み、年俸1億円」という会社が多いのではないだろうか。そして役員以外の社員は年俸100万円で十分、となる。(ユニクロ柳井流の思想だ。)そういう会社では、その中にいるだけで精神的な牢獄にいる気分だろう。

現代の若者たちにも「年功賃金」と「終身雇用」への回帰を望む声が多くなっているのは、この息苦しいビジネス社会に窒息しそうになっている彼らの悲鳴のように私には見える。

 

 

(以下引用)

 

 

「役員は報酬1億、万年ヒラは解雇?」 日本企業の歪んだ評価

終身雇用と年功序列は本当に“悪習”なのか?

 

 

(前略)

ここでちょっと興味深い調査結果を紹介しよう。労働政策研究・研修機構の、「第6回 勤労生活に関する調査」結果である。

 この調査は、1999年、2000年、2001年、2004年、2007年と過去に5回実施されており、6回目の調査は、2011 11月~12月に実施された。対象は全国20歳以上の男女4000人。調査方法は調査員による訪問面接という、極めて手の込んだ調査である。

 まずは「終身雇用」について。「良いことだと思う」「どちらかといえば良いことだと思う」と答えた人の割合は、87.5%と回答者の9割近くが支持し、過去最高となった(初回の1999年の調査では72.3%だった)。

 年齢階層別では、20歳代が84.6%、30歳代も86.4%で、若年層で8割を超えた。一方、60歳代では89.8%、70 歳以上が88.7%と、若干割合が高くなっているものの、若年層との差は、5ポイント程度だった。

 また、前回の2007年の調査で、20歳代、30歳代の若年層で「終身雇用」を支持する割合がともに10ポイント以上急激に伸びていたのだが(20歳代は65.3%から81.1%、30歳代は、72.1%から85.9%)、直近の2011年の調査でさらに支持率が上がったため、年齢階層別の差はより縮まっている。

労働政策研究・研修機構の調査が示した意外な結果

 続いて、「年功賃金」(本調査では、年功序列ではなく、年功賃金を調査項目にしている)。この項目でも、支持する人の割合は過去最高で、74.5%だった。(1999年は60.8%)。

 年齢階層別では、20歳代74.5%、30歳代73.1%、40歳代70.2%、50歳代73.0%、60 歳第の75.5%、70歳以上80.2%で、年齢階層が上がるに従って、支持割合が高まるという明確な関係は見られなかった。

 「年功賃金」も「終身雇用」同様、前回調査で、20歳代の支持割合が約20ポイントと大きく伸びている。ちなみに、1999年の初回調査では、20歳代の支持割合は56.2%だった。

 さて、これってどういうことなのだろう?

 これだけ世間では、「終身雇用・年功序列=悪習」とされているのに、9割近くが終身雇用を、8割が年功賃金を、「良いことだと思う」「どちらかといえば良いことだと思う」と答えている。しかも、どちらも過去最高の支持割合で、終身雇用や年功序列にアレルギーが強いと思われている20歳代と30歳代で、大幅にアップしているのだ。

 

(中略)

 

昨年、日本経済新聞に、若年層の就業者が勤続年数によってどれだけ賃金が上がるかをシミュレーションした結果のグラフが掲載されていた(日本経済新聞2012年7月30日付朝刊)。

 2000年に働き始めた世代は、勤続年数を経ても2倍程度にしか賃金が増えず、そのまま横ばいになる可能性があり、それより以前に就職した人たちより、賃金の増加の割合が少ないのだという。

 また、日本経済団体連合会は2011年、「経営労働政策委員会報告」の中で、定期昇給制度について、国際競争の激化や長引くデフレで「実施を当然視できなくなっている」と明記。雇用年数によって自動的に賃金を上げることを「やめる」との意思を明確に示し、能力の高い人、会社に利益を与える人を尊重する仕組みへと移行する方針を示した。

 今年の春闘でも、基本給を底上げするベースアップを「実施する余地はない」と一蹴。年齢に応じて賃金が上がる定期昇給の延期や凍結の可能性にも言及した。

 安倍晋三首相は先月に行われた講演会で、「今年の春闘では、たくさんの企業がよく応えてくださったと思います。報酬が上がることは、消費を拡大し、景気を上昇させて、企業にもメリットがあります」と成果を強調したそうだ。しかし連合が5月末に発表した春闘の結果によると、平均賃上げ額は前年比で「月額24円」のマイナス、非正規労働者の時給引き上げ額も前年比マイナスだったと報じられている(週刊ポスト2013621日号)。

 一方、「報酬1億円以上の役員急増 証券大手、株高で業績回復」なんて記事(朝日新聞デジタル 628()634分配信)が報じられ……

 ごく一部の人たちだけを、“ホクホク”させる会社の利益は、その人たち“だけ”の貢献によるものなのか? 何だかなぁ……。これって何なのだろう。

 

(中略)

 

 

人間は努力しているのに報われない状態が続くと、心身ともに疲弊していく。報酬は、金銭などの経済的報酬だけではなく、昇進や他者からの心理的報酬もある。自分の努力に対する対価の期待と、相手から受ける報酬のバランスが崩れた状態が続くと、それが慢性的なストレッサーとなり、働く人たちに冷たい雨を降らせ続けるのだ。

 ドイツの労働者を対象にした調査結果ではあるが、ドイツの社会学者J・シグリストらによれば、低報酬で慢性的なストレッサーにさらされると、急性心筋梗塞、突然死、脳卒中を発症するリスクが高まることが確認されている。その割合は、ブルーカラーで2.9倍、ホワイトカラーで4.4倍だった。頑張っても報われないと、健康までもが脅かされてしまうのだ。

 また、「他者からの尊敬」などの心理的報酬には、社内の上司からのねぎらいの言葉なども含まれる。もともと村社会で生活していた日本人には、この他者からの心理的報酬によって承認を得たい欲求が強いとの指摘もある。日本人は他人の目を気にする傾向が個人主義の欧米人に比べて強く、仲間たちに尊敬されることで、自分の価値を決める傾向が強いというのだ。

 いずれにしても、年功序列という制度は、これらの3つの報酬を働いている人にもたらす制度だったと言えるのではないか。「長い間頑張りました。うちの会社で働き続けてくれてありがとう」という会社からの報酬だった。

 現場で問題が起こったときや不測の事態が生じたときの対処には、経験が物を言うが、その「経験」も年功序列では評価できた。

 パフォーマンスは決して高くないし、目立つこともない。でも、会社が滞りなく回るための土台を支えている人たち。そんな働き続ける力と経験という“目に見えない”力を評価できる唯一のものが、年功序列という制度にはあったと思うのだ。

(以下略)

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