トランプが目指すアメリカ
以前の記事でも解説したが、最後にトランプが目指す改革の方向性を改めて確認しておくべきだおう。それはどんなアメリカなのだろうか?
トランプ大統領は、第25代大統領のマッキンレーを称賛し、この時代の高関税を実現するとしている。ちになみに現在の米国の関税は中国などの例外を除いて、基本的に2.5%から3.0%程度である。日本もほぼ同じレベルである。ところが、大統領に就任する以前のマッキンレーが1890年に提唱し、米議会が可決した関税はなんと49.5%であった。その後、引き下げられたものの、1913年以前は25%から30%前後の水準の関税がずっと堅持されていた。
もちろん当時はアメリカの製造業がまだ弱く、国内産業を保護する必要性があった。だが、この時代に高関税が一般的になった理由は他にもあった。アメリカは1913年に所得税を導入し、「連邦準備制度理事会(FRB)」を創設した。これ以前に所得税は存在しなかったのである。米政府の歳入のかなりの割合は、高い輸入関税から得られる収入によって賄われていた。この状況は、マッキンレーが大統領であった1897年から1901年には顕著であった。
トランプの目指すものは明らかだ。所得税が導入される以前、つまり1913年以前の状態に関税の水準を戻して、関税収入で米政府の主な歳入がカバーされてしまう状況を作り出したいのである。すると、政府の歳入が米国民の所得税に依存する必要性は大きく減る。この結果、所得税と税の還付を主な仕事にする「内国歳入庁(IRS)」は不要になる。規模を大幅に縮小し、関税徴収のための「外税庁」へと改組する。このように、「IRS」の閉鎖と高関税の適用はセットになっている。高関税の適用で所得税を廃止し、個人消費を引き上げて景気を上昇させるという大胆
な計画だ。
もちろん、輸入関税を引き上げると輸入製品の物価も上がる。これはただでさえ高止まりしているアメリカのインフレ率をさらに押し上げる結果になる。しかしトランプ政権は、高関税でもこれは解決可能と見ている。高い輸入関税を嫌って、企業は一斉に米国内に生産拠点を移転する。この結果、インフレは抑制され、逆に投資の活発化により雇用も増大するので、米国内の景気はよくなるというのだ。高関税によるインフレ圧力は、早いうちに解消するので問題ないとしている。
これが改革の骨子だ。果たしてこれがうまく行くのだろうか?また、ゴルバチョフの「ペレストロイカ」のように破綻の引き金になるのだろうか?それはまだ分からない。しかしはっきりしていることは、トランプ政権はすさまじいスピードで改革を断行し、その余波で不況が拡大することも容認しているという事実である。どうなるのか、注意深く見なければならない。
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