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徽宗皇帝のブログ

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前車の覆るは後車の戒めなり
「JBプレス」から転載。
ユーロを維持するコストとユーロが崩壊するコストは、どちらが高いか、という興味深いテーマである。
そもそもユーロ経済圏の問題とは、通貨統合という冒険を、将来の十分な見通しも無しに「えいやっ」と断行したところにあるわけだが、今そのツケを支払うことになったわけだ。要するに、働き者の長男や遊び人の次男、偏屈者の三男、怠け者の四男、といった兄弟が財布を一緒にしよう、と決めたようなもので、政府の異なる複数の国が経済だけは統合しようというところに無理がある。もちろん、将来的には政治統合をも目指しているわけだが、その前に経済統合の部分から破綻しそうである。もちろん金融統合と財政統合は別の話だが、大きく見れば経済統合自体の無理、と言えるだろう。
ついでながら、EU(ヨーロッパ連合)の前身、EC(ヨーロッパ共同体)の段階ですでに「非関税障壁の撤廃、労働力・商品・資本・サービスの自由移動を認める統一市場を形成した」(山川出版「政治経済用語集」)わけだが、その結果欧州全体が、ECやEUが無かった場合より発展したかどうか、検証してみる必要があるだろう。
さらについでながら、下記記事の中にあるアルゼンチンのデフォルトと、そこからの奇蹟的回復という事実は、いわば「バブル経済(金融経済)」によって破産させられた国が、「実体経済(生産業経済)」の強さによって復活した事例である。つまり、「物作り」において強い国は、「金融経済に浸食されない限り」は安泰なのである。アメリカなどは、資源に恵まれ、文化的水準も高い国だったのに、第三次産業、つまり「物を作らない産業」へと移行したために国家として貧困化していったのである。これらは言うまでもなく、日本の今後への指針となる事例だ。


(以下引用)


過去にも通貨同盟は崩壊してきた・・・〔AFPBB News〕
ユーロを救う対策のコストは、救済しない場合の結果が恐ろしすぎて考えられないという主張によって正当化されている。
 しかし、経済史には、後に固定が解かれた固定為替相場の例がいくつもある。通貨同盟の解体は、それより稀ではあるが、時折起きている。
 では、ユーロを維持するコストは、ユーロが崩壊するコストと比べて高いのだろうか安いのだろうか?
 この質問に簡単な答えはない。まず、ユーロ圏の崩壊と言っても、様々な展開がある。各国がそれぞれ元の通貨に戻る大規模な崩壊もあるし、欧州北部のハードカレンシー圏と南部のソフトカレンシー圏への分裂もある。少数の国が離脱することもあれば、退場する国が1つだけの場合もあるだろう。
 さらに、立ち去る国と残る国が崩壊後に行う様々な選択によって、さらに複雑さが増す。そしてこれらはすべて、経済と同じだけ、あるいはそれ以上に法律と政治にかかっている。
ユーロ圏離脱の2つのシナリオ
 2つの具体的なシナリオについて考えてみよう。ドイツは単独で離脱することもできるし、ドイツ産業連盟の元会長ハンス・オラフ・ヘンケル氏が最近提言したように、選ばれた小国集団――オーストリア、フィンランド、オランダ――とともに離脱することもできる。
 2つ目のもっと可能性の高いシナリオは、ギリシャが離脱するか、追い出されることだ。
 どちらの場合も、経済的な結果は壊滅的なものになる可能性があると多くのアナリストは言う。ドイツが離脱したとすれば、国際的な短期投機資金が「より大きく、より安全なスイス」に一斉に押し寄せるため、新ドイツマルクが急騰し、ドイツの製造業が苦しむことになる。
 ドイツの銀行は、国内の預金と融資の新通貨への切り替えには対処できるだろうが、その時は自国通貨に換算したユーロ建て対外資産の価値が下がるため、資本を増強しなければならなくなる。
 ギリシャが離脱したとすれば、生まれ変わったドラクマは急落するだろう。これは輸出業者にとってはいいかもしれないが、金融史を研究するカリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授が「あらゆる金融危機の母」と呼ぶものの引き金になるだろう。ユーロに対するドラクマの切り下げで、ユーロ建てのままのすべての債務がとてつもなく大きな負担になるのだ。
 同時に、すでに出口に向かってじわじわ進んでいる預金者が一目散に出口に向かう事態が発生し、ギリシャの銀行システムが崩壊するだろう。
 スイスの銀行UBSのエコノミストらの最近の調査では、こうしたシナリオはいずれも、コストが恐ろしいほど高くなることが示されている。ドイツが離脱した場合、ドイツが負担するコストは1年目が国内総生産(GDP)の20~25%に相当し、その後は毎年、その半分程度のコスト負担が生じる。
 ギリシャが離脱した場合には、1年目のコストがGDPの40~50%、その後の年間コストが約15%になるという。
 このようなコストは、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルがデフォルト(債務不履行)した場合に3カ国を救済するためにドイツが支払う一度限りの費用を小さく見せる。だが、UBSのリポートは、ユーロから出ていく国が欧州連合(EU)からも出ていかなければならないという極端な前提に基づいている。
 この見方に関しては法的な議論があるが、政治がほぼ確実にそれを凌駕するだろう。地中海東岸で辛い思いをした隣国を抱えたままにしておくこと、あるいはドイツを切り離すことは、欧州の幅広い利益にはならない。
 欧州の政策立案者たちは、単一市場をユーロ紙幣のたき火で焼き殺すのではなく、必死に守ろうとするだろう。このことは、ユーロ圏解体の経済的影響が、UBSのエコノミストたちが想像したほど破壊的にはならないことを示唆している。
アルゼンチンの教訓
 歴史の教訓は何を物語っているだろうか?
 通貨同盟というものは、より大きな政治的分裂の一環として崩壊する傾向がある。ルーブル圏は、ソビエト連邦の崩壊後、長く存続することはなかった。チェコ共和国とスロバキアの通貨統合は、ものの数週間しか続かなかった。
こうした状況は、はっきりとした類似点を示すものではない。だが、2001年終盤から2002年初頭にかけての債務・通貨危機の間に、ペソのドルペッグ制を絶ったアルゼンチンは、ギリシャにとって教訓的な前例になるかもしれない。
 アルゼンチンは、自国通貨をドルに固定した1991年に米国との通貨同盟に近い制度を創設し、カレンシーボード制に基づく外貨準備高を通じてドルとの繋がりを支えていた。
 その後10年間のアルゼンチンの経験は、ギリシャが2001年にユーロに参加してからのギリシャの経験と不安に感じるくらいよく似ている。どちらも最初は力強い成長を遂げたが、競争力の低下と財政の悪化に苦しんだ。ギリシャ経済の最近の急激な落ち込みは、国債がデフォルトし、通貨を切り下げる前のアルゼンチン経済と瓜二つだ。

 アルゼンチンの危機は血なまぐさいもので、銀行預金の引き出し制限(コラリート)が実施され、銀行の資産と負債がそれぞれ異なる為替レートで換算し直されたことによって預金者と銀行が多額の損失を被ったが、それが転換点になった(図参照)。
 生産高がさらに落ち込んだ後、アルゼンチンは2003年に9%成長し、その後2008年の金融危機と2009年の世界的な景気後退で減速するまで、ほぼその成長率を維持した(現在は10%近いペースで成長している)。
 デフォルトを巡る悪意のある論議がアルゼンチンを国際資本市場から締め出し続けてきたという事実にもかかわらず、農産物に対する世界的な需要拡大の追い風を受けて、国の繁栄が復活している。
ギリシャにとって心強い前例でもあるが・・・
 ギリシャがユーロからの離脱を余儀なくされたとすれば、アルゼンチンのケースがギリシャにとって心強い前例のように見えるかもしれない。
 競争力を回復するために賃金を引き下げるという長引くプロセスよりも、通貨切り下げを行う方が迅速な治療法になるだろう。さらに、ギリシャの債券の大部分は国内法に基づいて発行されており、これが、現在計画されているヘアカット(債務減免)よりも大幅な削減を課す自由裁量を多少なりともギリシャに与えている。
 現在提案中の債務交換がまとまった場合には、これはもう通用しなくなる。英国の法律に基づいて書かれる新たな契約では、今よりはるかに投資家保護が強化されるからだ。
だが、アルゼンチンの前例は、危機がいかに殺伐としたものになり得るかを示している。大規模な社会不安、次々と失脚する大統領等々だ。
 しかもギリシャの場合、危機はもっとひどくなる。1つには、急増する経常赤字など、ギリシャが好況時に増大するのを許した歪みは、アルゼンチンのそれよりはるかに大きいからだ。
 さらに、ギリシャは銀行預金の引き出し阻止や資本規制の導入に加え、新しい硬貨や紙幣という形で新通貨を導入するという大問題にも直面する。コンピューターからパーキングメーターに至るまで、あらゆるものを再調整しなくてはならない。数多くの新たな困難が、ただでさえ悲惨な状況をさらに悪化させるだろう。
最も心配なのは他国にパニックが広がる事態
 だが、投資家にとっても欧州の指導者にとっても本当に心配なのは、ギリシャの離脱が他国でパニックを引き起こし、ポルトガルやアイルランド、そして恐らくイタリアやスペインでも銀行取り付け騒ぎが起きる可能性があることだ。
 ギリシャは、アルゼンチンがほかの国の金融制度に組み込まれていたよりもはるかにしっかりと欧州各国の金融制度に組み込まれている。ユーロ圏は、経済統合では期待外れであることがはっきりしたかもしれないが、金融統合はたちどころに進んだ――これは今では慰めと正反対であることが判明している。
 ユーロ圏は途方もない規模で感染そして混乱が広がる余地を与えている。これが、ユーロ圏の危機をこれほど厄介で、これほど処理しにくい問題にしている理由だ。

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