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徽宗皇帝のブログ

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東大話法の読み方、実践編
「ダイヤモンドオンライン」の「伊藤元重の日本経済『創造的破壊論』」というコラムから転載。筆者は東大の先生らしい。
「『企業の海外展開が増えると日本が空洞化する』という勘違い」という記事タイトルに惹かれて読んでみたが、まあ、詐欺的言辞、いわゆる「東大話法」の一種である。要するに、グローバリズム擁護のための、「最初から結論ありき」の論だ。
誰がどう考えても企業が海外展開すれば日本は空洞化するに決まっている。アメリカがそのいい先例ではないか。なぜ日本はそうならないと言えるのか。
それは、まずこういう前提である。細かい突っ込みはしないでおこう。

≪海外にも出て行けないような企業は、グローバル競争に負けてしまう。国内の雇用も縮小せざるをえないのだ。海外に積極的に出てグローバル競争を有利に運ぶ企業が多いほど、国内の経済にも好ましい影響が及ぶはずだ。≫


この「はずだ」が無根拠の推定であることはすぐに分かるが、とりあえず、その根拠らしきものを読むと、こうある。自動車産業を例にしている。


≪たしかに、全国のいろいろなところで展開している自動車の組み立てについては、国内工場を閉鎖したり縮小したりして、海外に生産が移転しているかもしれない。
 しかし、そうしたグローバル展開が行われることで、そのメーカーの世界全体の生産量は飛躍的に伸びるだろう。トヨタ、日産、ホンダなどの日系メーカーは世界市場で競争しており、そこでのシェア競争をしている。
グローバルでの活動レベルが高くなれば、それだけ国内で新たな人材が必要になる。新車開発、グローバルな販売戦略、国際的な調達、生産技術や基礎技術の開発、法務、海外研修などグローバルな人事活動といった部門の人材である。こうした部門での雇用の多くは日本国内で生まれるはずだ。≫


要するに、国内工場閉鎖などによって生産の第一線の現場での雇用は減るが研究開発や管理部門での新しい雇用がある「はずだ」ということである。この「はずだ」がまったく無根拠であることは言うまでもないだろう。なぜなら、それが日本人への雇用である必要はまったく無いからである。さらに、国内でその雇用が補充されたところで、その数が僅少なものであることも目に見えている。一方、国内工場閉鎖による何千人、何万人もの雇用喪失は確実である。これを産業の空洞化と言うのである。
そもそも、グローバル展開することで「そのメーカーの世界全体の生産量は飛躍的に伸びる『だろう』」というという安易な推定がなぜできるのかも疑問である。グローバル化して成功できるのは、その企業にそれだけの体力があるからだが、この書き方だと、グローバル化する野心や積極性があればそれだけで成功できるみたいに聞こえる。
今回の中国での日系企業焼き打ちに見られるように、グローバル展開には常に大きなリスクがある。だからこそ、欧米企業は、まず相手国を政治的・法的に攻略して、その上で海外展開をするのだ。日本企業や日本政府にそれほどの能力が無いのは自明だろう。要するに、海外生産の現地リスクを棚上げにした「運頼みの海外進出」というのが、現在の日本企業の海外展開である。それによって失われる膨大な日本国内の雇用など考慮の外だ。要するに、グローバル化した企業はもはや外国企業に等しいのである。それが日本の労働者の生活など顧慮しないのは当然だろう。
簡単に言えば、企業にとって労働者は低賃金であるほどよい、ということだ。そして各国の労働者同士を競わせて先進国の低賃金化に拍車をかけるのがグローバリズムの本質だ。
こうした東大の先生の口車に乗ることで、日本の産業の空洞化はどんどん進む。労働者の貧困化もどんどん進み、格差はどんどん広がる。
東大のお偉い先生に対して反論するのは畏れ多いが、「グローバル化では日本経済は再生しない」と私は主張する。


(以下引用)




【第12回】 2012年9月24日

伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長]

「企業の海外展開が増えると
日本が空洞化する」という勘違い


 空洞化は避けられないという敗北主義に陥るのではなく、好ましい形の産業構造の転換を実現するという意志を持たなくてはいけない。
海外展開を積極的に行う企業は
国内の雇用を増やす
 産業構造の変化の方向については、少し長い話になるので次回取り上げる予定だ。ここでは残りのスペースを利用して、海外展開を活性化している企業活動が、国内の雇用に及ぼす影響についてもう少し掘り下げてみたい。
 最近、経済学の世界では、個別企業や事業所レベルでのデータを利用して、企業の海外展開の影響について分析を行う研究が多く出されている。こうした研究は、世界のいろいろな国で行われている。
 そのなかで興味深いのは「同じ業種のなかでも海外展開に積極的な企業のほうが、海外展開に消極的な企業よりも、国内での雇用により大きく貢献している」という指摘である。
 この結果を意外と思う読者もいるかもしれないが、よく考えてみれば当たり前のことだ。グローバル競争で生き残るためには、海外に積極的に出て行ったほうがよい。そういう業種は多いはずだ。
 海外にも出て行けないような企業は、グローバル競争に負けてしまう。国内の雇用も縮小せざるをえないのだ。海外に積極的に出てグローバル競争を有利に運ぶ企業が多いほど、国内の経済にも好ましい影響が及ぶはずだ。
 ふたたび自動車の例で考えてみよう。たしかに、全国のいろいろなところで展開している自動車の組み立てについては、国内工場を閉鎖したり縮小したりして、海外に生産が移転しているかもしれない。
 しかし、そうしたグローバル展開が行われることで、そのメーカーの世界全体の生産量は飛躍的に伸びるだろう。トヨタ、日産、ホンダなどの日系メーカーは世界市場で競争しており、そこでのシェア競争をしている。
グローバルでの活動レベルが高くなれば、それだけ国内で新たな人材が必要になる。新車開発、グローバルな販売戦略、国際的な調達、生産技術や基礎技術の開発、法務、海外研修などグローバルな人事活動といった部門の人材である。こうした部門での雇用の多くは日本国内で生まれるはずだ。
 海外人材や現地の人材を積極的に活用することは、もちろん重要である。ただ、日本の企業が世界で勝つためには、日本のなかで何らかの付加価値を生み出す必要がある。
 日本は急速に少子高齢化しており、生産年齢人口は縮小を続けている。国内で十分な生産のための労働を確保することは難しい。海外の労働力を有効に使わなくてはならない。
 その分、日本国内ではより付加価値の高い労働にシフトしていく必要がある。研究開発、グローバルな戦略部門などにおける労働である。
 自動車は一つの例にすぎない。あらゆる分野で、こうした内外の人材の活用に関するリアロケーション(再配置)が起きている。その変化を牽引するのが、企業の海外活動の拡大なのだ。

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