「田中宇の国際ニュース解説」で、例によって「隠れ多極主義」とか「米諜報界(の力の過大評価)」など、私が毎度批判している部分もあるが、世界の全体的な見取り図としては優秀だろう。長い記事なので、個々の部分の批判などの前説は省略。馬鹿な行為を「意図的だ」と見るのは、妙な方向の邪推だろう。政治は基本的に合理的(政治を裏から支配する誰かの利益に叶う)なものである。だが、感情による行為は理性による行為と同じくらいある。私は、WEFの雄弁より、ロスチャイルドの沈黙が気になっている。彼らは歴史から消えたのか? まさか。
(以下引用)
自滅させられた欧州
2022年7月30日 田中 宇ウクライナ戦争は、欧州を自滅させた。今年2月末にロシアがウクライナ侵攻を開始したとき、米国の最上層部である諜報界は、石油ガス輸入停止など厳しい対露経済制裁を行えばロシアは短期間で経済破綻し、ウクライナでの露軍の稚拙な作戦展開と相まって、ウクライナや欧米の勝利とプーチン政権の崩壊を実現できると自信満々だった。EUや独仏の上層部はその見方を軽信し、米英主導の対露制裁とウクライナ軍事支援に全面的に乗った。だが米諜報界は、米国覇権・欧米支配の体制を自滅させたい隠れ多極派に乗っ取られており、対露経済制裁とウクライナ支援でロシアを倒せるというシナリオは、欧米とくに欧州を自滅させるための歪曲話だった。 (ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧) (米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化)
欧州経済はロシアからの石油ガスに強く依存している。代わりの輸入先の開拓には10年以上かかる。ロシアからの輸入を止めたら欧州経済は破綻に瀕する。欧州の上層部はそれに気づき、ロシアからの石油ガス輸入を止めると口で言いつつ実は輸入を続けるというウソ戦略をとった。だが同時に欧州は、米国の言いなりでウクライナに兵器を送り続けるなどロシア敵視を続けたため、ロシアは報復として欧州に石油ガスを送る量を減らし続けた。ロシアから欧州への天然ガスの最大の輸送路であるノルドストリーム1パイプラインは先日の定期点検後、流量が平常の20%にまで減らされた。欧州はロシア敵視をやめず、深刻な天然ガス不足が今後も続くことが確定的だ。欧米の指導者や分析者の中には、これで欧州の対露制裁の失敗が確定したと宣言する者たちが増えている。ハンガリーの親露的なオルバン大統領などがそうだ。 (Ukraine Is Losing The War... And So Is Europe) (Hungary’s Orban says EU sanctions on Russia have failed)
米諜報界は傘下の米英マスコミを使ってウクライナ戦争の報道を歪曲し、ロシア軍が惨敗して自暴自棄になって街区の破壊や市民の殺戮などの戦争犯罪をガンガンやったかのような話が世界に流布した。だが実際のロシア軍は、当初から現在までウクライナでの作戦を成功裏に進めており、街区の破壊も市民の殺害も最小限にとどめている。国連によると、ウクライナ市民の戦死者数は、開戦から5か月近く経った7月12日にようやく5000人を超えた。毎月平均千人ずつしか市民が死なない戦争は珍しい。露政府が「戦争」でなく「特殊軍事作戦」と呼んでいるのは理解できる。米国はイラクやアフガニスタンで開戦から5か月間で10万-20万人ぐらいずつ殺した。ロシアは、最終的にウクライナを自国の傘下に入れたいので、街区破壊や市民殺害をできるだけやらない作戦を遂行し、成功している。 (Civilian Toll in Ukraine Conflict Passes 5,000 Mark, UN Says) (資源の非米側が金融の米国側に勝つ)
ウクライナの街区を破壊したのは露軍でなく、ウクライナ軍内のアゾフ大隊など極右民兵勢力だ。ウクライナ市民の半分かそれ以上は、ロシアを敵視していない親露派か中立派だ。ロシア敵視の極右民兵団はロシアを敵視しない自国民を嫌悪し、街区の破壊や市民の殺害を積極的に展開し、それをロシア軍の仕業だとウクライナ当局が言い、米国側のマスコミが鵜呑みにしてロシアを極悪に報道し、多くの人が報道を軽信した。破壊や殺戮の戦争犯罪を犯したのはロシアでなく、ウクライナの極右民兵団と、極右を背後から操ってきた米英諜報界である。 (ウクライナ戦争で最も悪いのは米英) (すでに負けているウクライナを永久に軍事支援したがる米国)
ソ連崩壊で独立したウクライナには、露軍港があるクリミアやドンバスなどロシア系の領域がいくつもあり、ウクライナがロシア敵視になるとロシアの安全保障が脅かされる状態だった。それを知りつつ米英は2014年にウクライナを転覆して反露な極右政権を作り、ドンバスでの殺戮や、クリミア露軍港使用禁止策をやらせた。ロシアがウクライナを奪還しようとするのは正当防衛だった。2014年からの全体をウクライナ戦争としてみると、侵略者は米英である。ロシアは悪くない。 (濡れ衣をかけられ続けるロシア) (まだまだ続くロシア敵視の妄想)
欧州の上層部は、このようなウクライナ戦争の真の構図を知っていたはずだが、NATOとしての対米従属の国是を重視し、米国が敷いた善悪逆転のロシア敵視路線に乗った。それでNATO・米国側が勝ってロシアを譲歩させられるなら、それでも良かった。しかし実のところ、ウクライナ戦争での米国側楽勝のシナリオは最初から、米諜報界の隠れ多極派が仕掛けた落とし穴であり、その路線に入り込んだ欧州は案の定、経済と安保の両面でひどく自滅させられ、経済が大不況への道をたどり、市民の多くが窮乏生活を強要され始めている。 (ドイツの失敗) (ロシア敵視が欧米日経済を自滅させ大不況に)
ウクライナの極右政権を軍事支援し、ロシアを経済制裁して潰そうとする策は、最初からうまくいかない詐欺的な策だった。欧州がそれに乗ったのは馬鹿だった。ロシアは今後、ウクライナで実質的な占領地をさらに拡大していく。すでに露軍がウクライナ軍を追い出してウクライナからの分離独立状態が確立したドンバス2州だけでなく、その周辺のロシア系住民が多い地域でも住民投票を行い、ウクライナからの分離独立を進めていく。いずれ、ドンバスから沿ドニエストルまでのウクライナ南部の全体が、ノボロシアとしてロシアの影響下に入れられていく。それを止める方法はもうない。米露核戦争に発展しかねないので、米軍が直接ウクライナに出ていくことはない。米軍が出ていかないので、ロシアの動きは止められない。 (ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?) (Media Miss Major Moves On Russia-Ukraine)
ウクライナは、東部と南部をロシア側に取られていく。残されたウクライナ西部は、歴史的にポーランドとのつながりが深い地域だ。ウクライナのネオナチなど極右勢力の支持者は、もともと親ポーランドの西部に多かった。ウクライナの極右政権は2月の開戦後、ポーランドの傘下に入る傾向を強めている。ウクライナとポーランドの政府は相互の人的な行き来を自由化しており、ウクライナ西部はポーランドに編入されていく感じだ。ロシアがウクライナの東部と南部を取ったら、ポーランドが残りのウクライナ西部を併合し、ウクライナという国がなくなってしまう可能性がある。プーチンの側近であるロシアのメドベージェフ元大統領が「今の事態(戦争)が終わるときウクライナはなくなっているかもしれない」と言っている。もしくは、小さくなったウクライナがポーランド傘下の国として残るかもしれない。 (Ukrainian MPs approve ‘special status’ for Poles) (Ukraine may disappear from world map ‘as a result of current events’ - Medvedev)
どちらにせよ、欧州など米国側が開戦時に軽信していた「ウクライナがクリミアを奪還し、プーチンのロシアが潰れる」というシナリオの実現性は、すでに確定的にゼロになっている。米国側はもうロシアに勝てないのだから、ロシアを経済制裁して石油ガスの輸入を止め続ける意味もない。ロシアは、米国側に輸出していた石油ガスをインド中国など非米側に輸出できるので経済制裁が続いてもかまわない。困っているのは、石油ガスが足りなくなっている欧州など米国側の方だ。欧州がロシアの石油ガスの輸入を止め続けると、欧州自身の経済の自滅がひどくなり、社会や政治も崩壊していく。制裁を続けても、ロシアの拡大とウクライナの縮小は止められない。むしろ欧州が対露制裁をやめて、ロシアと和解して石油ガスの輸入を再開するとともに、ロシアとウクライナの間を仲裁すれば、ロシアはこれ以上ウクライナでの支配地を拡大せず、ウクライナの領土がこれ以上削られずに平和を実現できるかもしれない。欧州は、ロシア敵視をやめることで石油ガス不足を解消でき、経済社会政治の自滅も防げる。 (ロシアの優勢で一段落しているウクライナ) (複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ)
しかし、この方法も多分うまくいかない。欧州(EU、独仏)がロシア敵視をやめると、米英とウクライナが欧州を猛然と非難し、敵視すら開始する可能性がある。ウクライナの極右政府は米英の傀儡であり、欧州の言うことなど聞かない。ゼレンスキーはドイツを馬鹿にしている。EUの中でも、ポーランドやバルト三国などはロシア敵視をやめることに強く反対する。独仏がロシア敵視をやめようとすると、その時点で米英と鋭く対立してNATOが崩壊し、ポーランドなども反対してEUも内部崩壊する。この崩壊によって米国側の全体が弱体化し、米国覇権の低下と露中の台頭・多極化に拍車がかかる。独仏が米国覇権や欧米優位の世界を壊したと非難される。 (US fears for EU unity amid gas cuts) (How A Russian Gas Freeze Would Curtail European GDPs)
そもそも、独仏やEUの上層部、政界官界マスコミなどエリート層には、米諜報界の傀儡勢力がたくさんいて、その傀儡たちが、欧州がロシア敵視をやめようとすると猛反対して阻止する構図ができている。欧州は米諜報界に入り込まれ、そもそもロシア敵視をやめることなどできない。欧州がロシア敵視をやめるとしたら、それは今後もずっと欧州がロシア敵視を続けてロシアからの石油ガス輸入が止まり続け、欧州の経済社会政治が今よりもっとひどく自滅していき、独仏など欧州各国で次々とエリート系の政権が選挙で転覆され、エリート支配を壊すポピュリストたちが政権を取って、その後の長いエリート層との政争に勝ってからだ。そこに行き着くまで何年かかるのかわからない。その間に米国の政治崩壊や金融バブル崩壊も起こりうる(日本はずっと自民党政権で安定し続けているだろうが)。 (日米欧の負けが込むロシア敵視) (European Gas Soars As Russia Throttles NS1 Flows To just 20% Of Capacity)
先日、ドイツの左派(SPD)のシュレーダー元首相がロシアを訪問し、ロシア側(プーチン?)と会談してロシアから欧州へのガス輸出の再増加をお願いしている。シュレーダーは親露派で、ノルドストリームのパイプライン建設計画の推進者だった。彼は、2月のウクライナ開戦後、ドイツや欧州のエリート層全体が強烈なロシア敵視を開始した後も「欧州はロシアの石油ガスなどが必要だ」と言って親ロシアを貫き、欧州のマスコミ権威筋などから猛烈に非難されても態度を変えなかった。今後、欧州のエリート層がロシア敵視をやめられずに経済社会政治の自滅が加速していくと、シュレーダーのような親露派の出番が再び出てくる可能性が増す(安倍晋三のように殺されなければ)。左派エリート政党であるSPDがシュレーダーの親露路線を再び受け入れれば、ドイツはポピュリスト政権にならずに親露派に転向(出戻り)しうる。 (German ex-chancellor Schroeder in Moscow, Putin meeting possible) (Ex-German Chancellor Schroeder arrives in Russia for talks on gas supplies)
どのような道をたどるにせよ、そこまで行くにはかなり時間がかかる。欧州は、今よりもっと崩壊しないと対露制裁をやめられない。ロシアが早くウクライナで支配地を拡大し、ウクライナがロシアとポーランドに分割されて国家消滅するのが早いと、欧州など米国側がロシア敵視に見切りをつけるのも早くなる。展開が早いと、米国覇権・欧米優位体制の崩壊があまり進まないうちにウクライナ戦争の構図が終わり、米国覇権が温存されてしまう。プーチンも米多極派も、それを望んでいない。プーチンはおそらく、米国覇権・欧米優位の体制が完全に壊滅するまでウクライナ戦争の対露制裁が続き、中途半端でなく完全に多極型の世界が出現することを望んでいる。だからロシアは、ウクライナでの軍事作戦をできるだけゆっくり進め、米国側が対露制裁を続けて自滅していくウクライナ戦争の構図をできるだけ長引かせている。ウクライナ戦争の構図は、少なくとも来年まで続く。3年ぐらい続くかもしれない。 (プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類) (Russia Will Now Help Ukrainians "Get Rid Of Regime," Lavrov Says)
プーチンは米国覇権の崩壊と多極化を望んでいる。その方がロシアが封じ込められず、発展するからだ。米国の資本家層の意を受けた米諜報界の隠れ多極派も、世界の非米側の地域が発展できる多極化を望んでいる。プーチンと米多極派がどの程度結託しているかはわからない。相互に連絡をとらなくても多極化を進められる。欧州は、今回のウクライナ戦争の前から、非現実な地球温暖化への対策としての自滅的なエネルギー政策の強要(効率的な化石燃料の禁止と、非効率な自然エネルギーの拡大)、新型コロナ対策としての都市閉鎖の超愚策をやらされるなど、米諜報界がマスコミ権威筋やエリート層を巻き込んでやらせたいくつもの謀略によって、経済的に自滅させられてきた。米国だけを潰しても、欧州など同盟諸国が米国を助けて覇権を維持してしまうので多極化できない。欧州と米国を同時に潰すことが必要だ。そのための欧州自滅策として、ウクライナ戦争の対露制裁はとてもうまくいっている。 (制裁されるほど強くなるロシア非米側の金資源本位制) (ひどくなる大リセット系の嫌がらせ)
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