私は安倍総理を大嫌いであり、アベノミクスも愚劣だったと思っているが、今の時点で政府がやるべきことは政府の「財政再建」ではなく「国民救済」だろう。そのためにはむしろ安倍派が主張する「積極財政」、言い換えれば「日本国内でのカネのバラ撒き」が必要である。その中に公共事業拡大を積極的に入れれば、戦後80年近く経って老朽化した各地のダムや公共施設を補修し、あるいは完全に新しくして、次の80年に向けて日本を衣装替えできるわけだ。こういう時にこそ政府のカネは使うのである。
ただし、安倍一派の言う「積極財政」はおそらく「軍事費増」が本丸だろうから、それは絶対に許すべきではない。そもそも、軍備増強の大半はアメリカからの兵器購入だろうから、日本国民の生活向上にまったく寄与しない。そして、軍国化によって中国やロシアの警戒心を高め、一触即発の危険を高めるだけである。
(以下引用)
朝日新聞、文字起こし
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安倍氏「アベノミクスをなんだと」
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「骨太の方針」自民提言案に
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歴代最長を記録した安倍晋三政権の遺産にどう向き合うか、自民党内の路線対立が表面化した。経済政策「アベノミクス」をめぐり大立ち回りを演じたのは、安倍氏本人だった。
5月19日、自民の財政再建派を中心とする財政健全化推進本部の会合後、安倍氏は、自らの派閥に属する越智隆雄・元内閣府副大臣の電話を鳴らした。「君はアベノミクスを批判するのか?」。声は怒気をはらんでいた。
推進本部で事務局長を務める越智氏は、「批判はしていません」と理解を求めたが、安倍氏は「周りはアベノミクスの批判だと言っているぞ」と迫った。「僕はアベノミクス信奉者です。だって、(経済政策を担う)内閣府の副大臣を2回もやったじゃないですか」。越智氏が訴えると、安倍氏は「そうだな」と電話を切った。
話を終えた安倍氏は、周囲に「誰があんなバカな提言を書いたんだ」と言い捨てた。怒りの矛先は、本部の会合で示された提言案だった。政府の経済財政運営の基本方針「骨太の方針」への反映をめざしてまとめた提言案には、こんな指摘が盛り込まれた。
「近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として過去30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル」。また、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で見ても『安い日本』となりつつある」との分析も記された。
これを、安倍氏は自らの政権の旗印だったアベノミクスへの批判と受け止めた。そもそも、機動的な財政出動を重んじ、基礎的財政収支(PB)の黒字化目標には大きくこだわらない安倍氏と、黒字化の明確な行程を打ち立てたい再建派の主張は相いれなかった。
「安い日本という表現もおかしい。アベノミクスをなんだと思っているんだ」。そう漏らした安倍氏の言葉は、再建派に攻勢をかける「宣言」でもあった。(楢崎貴司、中田絢子)
3面に続く
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修正要求 財政再建派うめき声
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1面から続く
安倍政権の経済政策「アベノミクス」ににわかに光があたった自民党内の路線対立。その火種は、半年前にさかのぼる。
昨年12月、積極財政派の拠点となる「財政政策検討本部」の議論がスタートした。本部長には安倍派の西田昌司参院議員。最高顧問は安倍晋三元首相だった。
西田氏は自国通貨建ての国債を発行できる国なら、インフレになるまで赤字を気にせず財政拡大できる「MMT」(現代貨幣理論)の論者だ。翌年6月に決まる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に向け、主導権を握ることを狙った。
財政再建派も対抗する動きを見せた。
党内のバランスに配慮する茂木敏充幹事長が岸田文雄首相らと相談し、総裁直轄の「財政健全化推進本部」を新たに立ち上げた。本部長に額賀福志郎元財務相、最高顧問に麻生太郎副総裁ら財務相経験者が顔を並べた。12月初旬の初会合には首相も出席し、額賀氏らは推進本部が「正規軍」との姿勢をにじませた。
それから半年、両本部はそれぞれ十数回に及ぶ議論を積み重ねた。
先に提言をまとめたのは安倍氏ら積極派だった。
とりまとめにあたった5月17日の会合で、西田氏は「内容は非常に穏やか」と説明した。提言には、当初検討した「基礎的財政収支(PB)黒字化目標の凍結」の文字はなかった。「カレンダーベースでの目標設定が柔軟な政策対応を妨げ、政策の選択肢をゆがめることはあってはならず、今後、十分に検証を行っていくべきだ」との表現にとどめた。
背景には、参院選を前に党内の対立が先鋭化するのは好ましくないとの判断があった。このころには、ウクライナ危機による物価高が経済を直撃していた。経済政策の論争を引き起こすことは、政権与党にとってリスクもあるとみた。提言をまとめる直前には、安倍氏が麻生氏と直接、内容をすり合わせた。積極派は再建派にも配慮を期待した。
しかし、その後に出てきた再建派の提言案は、安倍氏らにとって、許容できる内容ではなかった。
19日の推進本部の直前にあった安倍派の例会で、提言案を事前に聞かされていた安倍氏は、「我がグループも(再建派の議論に)参加している。皆の意見を採り入れてもらい、満場一致の拍手になることが大切だ」と発言。派閥の議員は「推進本部を荒れさせる前振りだ」と受け止めた。
それから約2時間後に始まった本部の会合は紛糾した。安倍氏に近い議員は「『安い日本』という自虐的な表現はやめてほしい」などと修正を要求。「官僚に丸投げしたとは思わないが……」と財務省の関与をにおわせると、再建派から「失礼だろ!」と怒号が飛んだ。2時間の会合で25人が発言し、とりまとめには至らなかった。
翌20日の会合では、アベノミクスへの言及を大幅に加筆するなどした修正案が示されたものの、批判は収まらず、扱いは額賀本部長に一任となった。安倍氏が直接「交渉」に乗り出し、額賀氏にこう伝えた。「こんな提言を出したら、恥をかきますよ」
23日午後、議員会館の安倍氏の事務所に安倍、麻生、西田、額賀の4氏が顔をそろえた。この場で安倍氏側は「数十行」(再建派の一人)の修正案を額賀氏に示したという。再建派内からは「とにかくアベノミクス批判は許さないということか」とのうめき声が漏れた。
文案の修正を重ねた額賀氏や越智隆雄氏らは26日、ようやく提言を発表した。PB黒字化の堅持は維持し、額賀氏は「基本的なことは変わっていない」と強調した。一方、アベノミクスに関わる部分は大幅に修正。「アベノミクスは道半ば」と追記し、「安い日本」などの記述は消えた。
安倍氏は積極派、再建派双方の提言がまとまると、こんな予測を周囲に披露した。「骨太の方針は、両方の提言を足して2で割ったものになるだろう」。実際、31日の政府の経済財政諮問会議に示された骨太の方針原案は、「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」としつつ、例年記載してきた「2025年度」の年限は削られた。
「失われた30年 振り返る責任」
安倍政権が発足した2012年末に比べ、株価はいま2・7倍。一方、名目賃金から物価変動の影響を除いた賃金の動きを示す実質賃金指数は、21年平均は12年平均を下回る。国債残高は705兆円(12年度末)から991兆4千億円(21年度末)に膨らんだ。
再建派の一人は「政権与党として、アベノミクスのプロパガンダではなく、失われた30年を真摯(しんし)に振り返る責任がある。日本経済の余命はあと何年か。早く持続可能な形にしないと世界から見放される」と語る。
一方の安倍氏は、参院選を前に各地でアベノミクスの成果を誇る。5月末の富山市の講演では、「日本には1千兆円近く累積債務があるが、半分は日本銀行に国債を買ってもらっている。日銀が買った国債はずっと借り換えをしている」と語り、「経済V字回復を」と訴えた。
アベノミクスをめぐる騒動から距離を置いていた党幹部は、自嘲気味に語る。「日本は結局、長い間経済成長ができていない。でも次に何をやるかが全然はっきりしない。いまの政権内の構造では、これが限界なのかもしれない」(楢崎貴司、中田絢子)
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