「泉の波立ち」から転載。
イノベーション(技術革新)は雇用減少と労働者の給与水準低下、その結果としてのデフレをもたらし、デフレは企業倒産とあらたな雇用減少に結びつく、という負のスパイラルがある。これは私がだいぶ前から言っていることだが、南堂氏も同様の見方をしているようだ。本職の経済学者のお墨付きが出たようなもので、私も心強い。(南堂氏とは、政治的には対立することも多いが)
もちろん、すべてのイノベーションが雇用減少に結びつくわけではない。
近代初期においては、あらゆる工業分野でイノベーションが起こり、それらは新しい産業となって新しい雇用を生み出した。
しかし、現在、そのように新しい雇用を生み出すイノベーションがほとんどなく、IT技術のように合理化(=雇用人員削減)につながるイノベーションしかないのである。
したがって、この負のスパイラルから抜け出すには「工業中心の社会」から脱するしかない、というのが私の考えだ。
工業という産業そのものがいわば「自然からの資源収奪」「環境破壊」の裏面を常に持っていたわけで、近代化は自然破壊、人間性破壊の一面を持っていた。
今、ここまで蓄積された工業技術を環境保全と新しい第一次産業に転化すれば、新しい産業が生まれ、雇用は促進され、そして自然は回復し、人間性も回復される。
その「新しい第一次産業」が「工業的農業」であり、「工業的漁業」である。養殖漁業などは工業的漁業だ。
私は、数十年後には、農作物の大半は「農業工場」で生産されると見ている。高層ビルの各フロアが田畑になり、散水機や施肥機械の管理が雇用者(サラリーマン農民)の主な仕事となる。半密閉空間だから病虫害の心配もなく従って農薬も不要だ。
これを夢想だと笑ってもいい。だが、この夢想は、世界全体の幸福をもたらす夢想である。
(以下引用)
池田信夫はジョブズを論じて、次のように述べている。
日本が彼のようなイノベーターを生み出せなくなって久しく、それが長期停滞の原因の一つともなっています。
ここでは、「ジョブズのもたらしたイノベーションが経済を成長させた」という認識のもとで、「日本の経済停滞はイノベーションがないからだ」というふうに認識している。
しかし、このような認識は間違いだ。
はっきり言えば、イノベーションと経済成長は、何ら関係がない。どちらかと言えば、イノベーションは経済成長を損なう傾向がある。なぜか? イノベーションは、生産性の向上をもたらすが、そのとき、「供給の増加」にともなって「需要の増加」が同率で発生しないと、「供給過剰」という形で、「景気悪化」「失業」「デフレ」という現象が発生するからだ。
仮に、イノベーションがなければ、生産性の向上も少ないし、不要になる人間も少ないし、解雇される人間も少ないので、社会はなだらかに少しずつ向上していく。それは戦後数十年にわたって続いた。ところが、IT化の時代には、イノベーションにともなって、あちこちで社会構造が激変した。たとえば、デジカメ産業が隆盛して、銀鉛フィルム産業が衰退した。(コダックは今や倒産しそうだ。)こういう激変の時代には、衰退した産業で大量の人員が解雇される。それがそのまま成長産業で雇用されればいいが、生産性の向上にともなって、必要とされる人間の総数が減ってしまっている。こうして大量の失業が発生し、それにともなって経済全体が低迷しがちとなる。……これが「イノベーションによる景気低迷」であり、現実に起こっていることだ。
要するに、イノベーションが起こると、イノベーションの勝者だけは大勝利をするが、社会的には、「供給と需要の一致」というマクロ政策において愚かな失敗が起こりがちであり、そのせいで景気低迷が起こりがちである。つまり、一部の商社は生じても、社会全体では経済は低迷しだ。
ところが、ここにおいて、「金メダルを取る人の方法を真似れば、誰もが金メダルを取れる」と考える愚か者が出てくる。そういう愚か者は、「イノベーションが起これば経済成長が起こる」というふうに思い込む。
しかし、それは間違いだ。
──
これが間違いだということは、現実を見ればわかる。
まず、「ジョブズはイノベーションをもたらした」というのは、一応事実だろう。では、「ジョブズがイノベーションをもたらしたことで、ジョブズはアメリカに経済成長をもたらした」というのは、事実か?
池田信夫は「イエス」と思い込んでいる。つまり、次のことが成立すると思っている。
・ アップルやIT産業の盛んな米国は大幅な経済成長をした。
・ アップルもなくIT産業も劣る日本は経済成長をしなかった。
しかしこのようなことは、現実には成立しない。
そのことは、経済的な数値を見ればすぐにわかる。なるほど、次の数値を見れば、上記のことは成立する。
・ 米国経済についてはドル表示 (ドル表示での伸び率は高い)
・ 日本経済については円表示 (円表示での伸び率は低い)
しかし、これでは、数字を比べるときの単位が違っているので、無意味だ。数字を比べるのならば、単位をそろえる必要がある。つまり、ドルまたは円にそろえる必要がある。
すると、どうなるか?
・ 米国経済の GDP 伸び率
・ 日本経済の GDP 伸び率
この両者をともに「ドル表示」または「円表示」で比較すると、いずれにしても、日本の伸び率の方がかなり高い。日本の方がおよそ 1.5倍になっている。
実を言うと、毎年毎年の経済成長率は、日米で大差がない。1~3%程度だ。一方、ドルと円の通貨レートは、ここ数年の間に大幅に変化した。1ドルの価値は、数年前の 120円ぐらいから、最近では 75円ぐらいまで大幅に変動した。
これはつまり、米国経済が大幅に弱体化したということであり、米国威経済が大幅に縮小したということだ。逆に言えば、日本経済が大幅に強大化したということであり、日本経済が大幅に成長したということでもある。(世界的な視野で見れば。)
結局、日本経済は世界的な視野では、大幅に成長しているのだ。「日本経済が停滞している」と見えるのは、あくまで国内的に見た場合のことだ。そして、日本経済が国内的に停滞しているのは、あくまでデフレ(国内の需要不足)が理由であって、イノベーションがないからではない。
仮に日本でイノベーションがなかったなら、輸出力が弱体化して、円は大幅に円安になっていたはずだ。……しかし実際には、円は通貨安にはなってはいない。逆に、通貨安になっているのは、ユーロとドルだ。
池田信夫は、物事を根本的に勘違いしている。彼の頭には、「自国通貨建て」の経済だけがあって、「ドル表示で統一的に認識する」という発想がないのだ。頭があまりにも閉鎖的・鎖国的である。グローバル時代に完全に取り残されている。
イノベーション(技術革新)は雇用減少と労働者の給与水準低下、その結果としてのデフレをもたらし、デフレは企業倒産とあらたな雇用減少に結びつく、という負のスパイラルがある。これは私がだいぶ前から言っていることだが、南堂氏も同様の見方をしているようだ。本職の経済学者のお墨付きが出たようなもので、私も心強い。(南堂氏とは、政治的には対立することも多いが)
もちろん、すべてのイノベーションが雇用減少に結びつくわけではない。
近代初期においては、あらゆる工業分野でイノベーションが起こり、それらは新しい産業となって新しい雇用を生み出した。
しかし、現在、そのように新しい雇用を生み出すイノベーションがほとんどなく、IT技術のように合理化(=雇用人員削減)につながるイノベーションしかないのである。
したがって、この負のスパイラルから抜け出すには「工業中心の社会」から脱するしかない、というのが私の考えだ。
工業という産業そのものがいわば「自然からの資源収奪」「環境破壊」の裏面を常に持っていたわけで、近代化は自然破壊、人間性破壊の一面を持っていた。
今、ここまで蓄積された工業技術を環境保全と新しい第一次産業に転化すれば、新しい産業が生まれ、雇用は促進され、そして自然は回復し、人間性も回復される。
その「新しい第一次産業」が「工業的農業」であり、「工業的漁業」である。養殖漁業などは工業的漁業だ。
私は、数十年後には、農作物の大半は「農業工場」で生産されると見ている。高層ビルの各フロアが田畑になり、散水機や施肥機械の管理が雇用者(サラリーマン農民)の主な仕事となる。半密閉空間だから病虫害の心配もなく従って農薬も不要だ。
これを夢想だと笑ってもいい。だが、この夢想は、世界全体の幸福をもたらす夢想である。
(以下引用)
池田信夫はジョブズを論じて、次のように述べている。
日本が彼のようなイノベーターを生み出せなくなって久しく、それが長期停滞の原因の一つともなっています。
ここでは、「ジョブズのもたらしたイノベーションが経済を成長させた」という認識のもとで、「日本の経済停滞はイノベーションがないからだ」というふうに認識している。
しかし、このような認識は間違いだ。
はっきり言えば、イノベーションと経済成長は、何ら関係がない。どちらかと言えば、イノベーションは経済成長を損なう傾向がある。なぜか? イノベーションは、生産性の向上をもたらすが、そのとき、「供給の増加」にともなって「需要の増加」が同率で発生しないと、「供給過剰」という形で、「景気悪化」「失業」「デフレ」という現象が発生するからだ。
仮に、イノベーションがなければ、生産性の向上も少ないし、不要になる人間も少ないし、解雇される人間も少ないので、社会はなだらかに少しずつ向上していく。それは戦後数十年にわたって続いた。ところが、IT化の時代には、イノベーションにともなって、あちこちで社会構造が激変した。たとえば、デジカメ産業が隆盛して、銀鉛フィルム産業が衰退した。(コダックは今や倒産しそうだ。)こういう激変の時代には、衰退した産業で大量の人員が解雇される。それがそのまま成長産業で雇用されればいいが、生産性の向上にともなって、必要とされる人間の総数が減ってしまっている。こうして大量の失業が発生し、それにともなって経済全体が低迷しがちとなる。……これが「イノベーションによる景気低迷」であり、現実に起こっていることだ。
要するに、イノベーションが起こると、イノベーションの勝者だけは大勝利をするが、社会的には、「供給と需要の一致」というマクロ政策において愚かな失敗が起こりがちであり、そのせいで景気低迷が起こりがちである。つまり、一部の商社は生じても、社会全体では経済は低迷しだ。
ところが、ここにおいて、「金メダルを取る人の方法を真似れば、誰もが金メダルを取れる」と考える愚か者が出てくる。そういう愚か者は、「イノベーションが起これば経済成長が起こる」というふうに思い込む。
しかし、それは間違いだ。
──
これが間違いだということは、現実を見ればわかる。
まず、「ジョブズはイノベーションをもたらした」というのは、一応事実だろう。では、「ジョブズがイノベーションをもたらしたことで、ジョブズはアメリカに経済成長をもたらした」というのは、事実か?
池田信夫は「イエス」と思い込んでいる。つまり、次のことが成立すると思っている。
・ アップルやIT産業の盛んな米国は大幅な経済成長をした。
・ アップルもなくIT産業も劣る日本は経済成長をしなかった。
しかしこのようなことは、現実には成立しない。
そのことは、経済的な数値を見ればすぐにわかる。なるほど、次の数値を見れば、上記のことは成立する。
・ 米国経済についてはドル表示 (ドル表示での伸び率は高い)
・ 日本経済については円表示 (円表示での伸び率は低い)
しかし、これでは、数字を比べるときの単位が違っているので、無意味だ。数字を比べるのならば、単位をそろえる必要がある。つまり、ドルまたは円にそろえる必要がある。
すると、どうなるか?
・ 米国経済の GDP 伸び率
・ 日本経済の GDP 伸び率
この両者をともに「ドル表示」または「円表示」で比較すると、いずれにしても、日本の伸び率の方がかなり高い。日本の方がおよそ 1.5倍になっている。
実を言うと、毎年毎年の経済成長率は、日米で大差がない。1~3%程度だ。一方、ドルと円の通貨レートは、ここ数年の間に大幅に変化した。1ドルの価値は、数年前の 120円ぐらいから、最近では 75円ぐらいまで大幅に変動した。
これはつまり、米国経済が大幅に弱体化したということであり、米国威経済が大幅に縮小したということだ。逆に言えば、日本経済が大幅に強大化したということであり、日本経済が大幅に成長したということでもある。(世界的な視野で見れば。)
結局、日本経済は世界的な視野では、大幅に成長しているのだ。「日本経済が停滞している」と見えるのは、あくまで国内的に見た場合のことだ。そして、日本経済が国内的に停滞しているのは、あくまでデフレ(国内の需要不足)が理由であって、イノベーションがないからではない。
仮に日本でイノベーションがなかったなら、輸出力が弱体化して、円は大幅に円安になっていたはずだ。……しかし実際には、円は通貨安にはなってはいない。逆に、通貨安になっているのは、ユーロとドルだ。
池田信夫は、物事を根本的に勘違いしている。彼の頭には、「自国通貨建て」の経済だけがあって、「ドル表示で統一的に認識する」という発想がないのだ。頭があまりにも閉鎖的・鎖国的である。グローバル時代に完全に取り残されている。
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